Doctorbook academy

稲垣 伸彦

MTMでシザーズバイトを改善した一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2010年1月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201001.pdf

#MTM #シザーズバイト #歯周治療 #信頼関係
【患者】
28歳,女性.職業は劇団員.人前にでる機会が多いことから,初診時より審美的な要求を求めていた。

【主訴】
右下6の遠心部歯質が欠けたということで来院.同部は数か月前からしみるような症状があったが,生活に支障がないため放置.最近,同部位に食片がよくつまることから,欠けていることに気づいたという.

【歯科既往歴】
定期検診などは受けておらず,トラブルが起きたときのみ歯科を受診している.

【診査診断】
右下6の二次う蝕を主訴に来院されたが,果たしてこの歯のう蝕処置のみを行って問題を完全に解決できるか疑問であった.
そもそもなぜこの歯がう蝕になり,破折に至ったのかを考察した.
当然プラークコントロールの問題もあるが,その他に後方歯である右側上下7がシザーズバイトで咬合していないこと,患歯の対合歯である右上6の遠心咬頭が,右下6の破折部位にはまり込むような咬合をしていることなどから,右側臼歯部咬合関係の不良により,右下6遠心部への外傷力が加わっていたのではないかと考えた.

【治療計画】
シザーズバイトの改善を目的としたMTM は,本来なら同歯列上に強固に固定源を確保し上下顎別々に歯牙移動を行っていくのが望ましい.しかし患者は仕事柄, 人前で話をする機会が多く, 金属の装置がみえることや,装置が広範囲に及ぶことを嫌がった.
そこで,患者が許容でき,原因が取り除ける方法として,リンガルボタンとパワーチェーンを用いるシンプルな方法を提案した.この方法は歯が挺出する傾向があること,干渉部の咬合調整が必要な場合があるなどの欠点がある.
しかしこの患者は顔貌,口腔内所見よりブレイキーフェイシャルで咬合力が強く,挺出に対し圧下させる力も作用しやすいのではないかと考え,注意深く歯牙の移動を行っていくこととした.

【結果】
患者の咬合力により圧下させる力もはたらき,歯の挺出による咬合高径への影響は回避できた.
矯正学的には理想的な方法とはいえないが,患者の要望を加味したうえでの治療法の選択であり,結果として過重負担となっていた􏿌の後方部位に咬合接触を与えることができた.

【今後の課題】
卒業して間もないころ,「どんなに小さな処置でも,1つひとつのステップをしっかり丁寧に処置すること.その積み重ねが全顎的な処置へ対応する自分自身の糧になる」と教えていただいた.
まだまだ技術,勉強,経験と足りないところが多く,全顎的な処置には苦慮することが多い.
今後も研鑽を積み,さまざまな症例に対応していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 長谷川 嘉昭

     若手の先生の臨床をみると,「木を見て森を見ず」と言いたいことがある.
     しかし今回の症例は,う蝕の原因を追及しようとする先生の想いが伝わってくる.また診断の成否は別としても全顎的に診査しようとする心構えには共感を覚える.
     シザーズバイトを改善することは,咬合の安定と清掃性を向上させ,う蝕予防効果がある処置であったといえよう.ただし,右下6のう蝕の原因と相関させるには少々深読みの可能性があるのではないだろうか.私が一番気になるは, 右上6の遠心咬頭が下がってくる現象を見逃していることに他ならない.

     6 歳臼歯が萌出してからの経過を観察すると,この遠心咬頭が下がる患者とそうではない患者に分かれると感じている.確かに今回のう蝕による歯の破折は,外傷力による影響が高いであろう.そうであるならば, 上6の遠心咬頭の選択的削合を第一選択とし,その後下6のう蝕治療を施してから経過をみるべきである.そしてその経過から右側7番のシザーズバイトの問題に着手する時間的余裕をもってほしかった.
     修復処置を完了した咬合面形態とオクルーザルストップの位置が,術前の診断と整合性があるのかを,ぜひ再評価していただきたい.

    <このコメントは2010年1月ザ・クインテッセンスに掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 長谷川 嘉昭

     自分が施術した治療結果の予後を,よく観察していただきたい.なぜならメタル修復の時代から審美修復が主流の現在では,その素材の違いから咬合調整が難しくなってきているからだ.
     メタル修復であれば,荷重負担部位は,シャイニングという現象を肉眼で捉えることが可能であったが,現在の修復材料ではまず不可能であるし,破損や脱離として跳ね返ってくるからである.また,矯正後の後戻りによる咬合干渉の可能性についても考えてほしい.
     さらに,術前と術後のエックス線写真の比較を絶えず行い,外傷性咬合を裏付ける初診時の歯根膜空隙の拡大が,今回の治療によってどう変化したのかも再評価していただきたい.
     次世代を担う若手歯科医だからこそ,少々手厳しい意見を言わせていただいたことを了承してほしい.口腔内を総合的に診断することの重要性を認識している先生だからこそ,あえて「森を見ながら木1 本1 本をよく診よう」
    と最後にエールを送りたい.

    <このコメントは2010年1月ザ・クインテッセンスに掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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