Doctorbook academy

手島 将

オールセラミックスを用いた審美修復─開業当初,私のfirst stepとなった症例─

<この症例はザ・クインテッセンス2010年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201002.pdf

#歯肉の診断 #プロビジョナルレストレーション #オールセラミックス

【患者】
36歳,女性.専業主婦.初診日は2006年6月24日.
性格は明るく,はっきり物事をいうタイプ.

【主訴】
左上2番の色が気になる.見える部位のゴールドは白い歯にしたい.

【歯科既往歴】
口のことにとくに意識が高いわけではないが,インレー,クラウンなど処置歯はすべてゴールドで行われている.

【診査・診断】
全顎的には歯周組織の状態は良好である.軽度プラーク性歯肉炎と診断した.上下顎とも歯列の叢生を認める.
主訴である左上2番は失活歯であり,デンタルエックス線写真にて根尖病巣は認めないが根管充填が不十分である.
歯肉の診断はMaynard の分類Type4である.

【治療計画】
①歯列不正に対し,矯正治療の説明を行う.
②左上2番に対しては根管治療の必要性,補綴物は硬質レジン前装鋳造冠,ハイブリッドレジン,メタルセラミックス,オールセラミックス,それぞれの長所と短所および特性を説明.
 両隣在歯が天然歯であることからオールセラミックスをすすめた.

患者は①に対しては患者自身とくに気にならないとのことで,②の治療のみ選択した.
治療計画としては初期治療と並行して左上2番の根管治療を行う.
その後,プロビジョナルレストレーションでサブジンジバルカントゥアの調整を行い最終補綴物を装着する,仮歯の期間が長くなることを説明し納得してもらったうえで治療を開始することとした.

マージンラインは,歯肉が非常に薄いと診断して,歯肉縁下0.5~0.7mm に設定した.
また,プロビジョナルレストレーションにて歯肉にティッシュサポートを付与する際も,安易に強いカントゥアを与えると歯肉が退縮してしまう可能性があるため慎重に行った.
最終補綴物は患者の審美性に対する希望,歯肉のタイプ,ファイバーコアが可能であること,両隣在歯が明るく透明感のある色調の天然歯であること
からジルコニアフレームのオールセラミックス(Lava)とした.

【自己評価】
プロビジョナルレストレーション,そしてファイナルプロビジョナルレストレーションから最終補綴物装着まで1年ほどかかったが,
患者との信頼関係がしっかりと築けていたので何のトラブルもなく治療を進めることができた.

【今後の課題】
さまざまな高度な治療へのステップアップは必要だと思うが,今後も1歯,1歯における基本的な治療を確実に行うことを念頭においた治療にこだわりたい.
そのうえで,できるかぎり歯の保存に努め,それを望む患者を満足させる治療ができる歯科医師になりたい.
そこから一口腔単位での総合医療のなかで,全顎的な治療に携わっていきたいと思う.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 田中 秀樹

     左下3が唇側に転位していることを考えると歯列矯正をしないのであれば, 左上2のボーンハウジング内での歯根の位置関係の診断,それにともなう歯肉のバイオタイプと咬合関係を考えたマージン設定と補綴形態を考える必要がある.
     それを怠ると審美性と機能の調和は得られない.
     規格性のあるデンタルエックス線写真と歯内治療後の結果から,先生の1歯1歯に対する治療への真摯な姿勢が伺える.
     プロビジョナルレストレーションでのサブジンジバルカントゥアの形態,審美性と咬合のバランスを十分に考えて最終補綴に移行していることは評価できるが,フィニッシングラインの位置が遠心で少し歯肉縁下に深く入りすぎているように思われる.そしてスムーズなフィニッシングラインの仕上げにもう少しこだわってほしい.
     1歯のみの歯冠補綴治療であるが,それらを無視するとセラミックの破折,歯肉退縮などのトラブルに見舞われることになるであろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 田中 秀樹

     診断にこだわり,基本治療を大切にすることを忘れずに,トレンドや派手な治療に目を奪われることなく,まず1 歯1 歯の保存治療に全力を尽くしてほしい.
     これからも継続して,規格性のあるエックス線写真,口腔内写真,スタディモデルなどの患者資料を整理し,患者に対しても十分納得させられるだけの説明能力を磨いていくことが,診断力の向上につながっていく.
     最初の治療時だけでなく,治療の節目,治療終了時,さらにメインテナンスにおける節目ごとに,連続性と規格性をもって資料をとり,観察することで,経験がエビデンスへと結びついていく.
     そして自信と過信をはき違えずに患者のナラティブもとり入れ臨床にのぞめば,その姿勢に患者が惹かれ,少しずつ全顎的な治療に目を向けざるを得なくなる.
     結果,患者は,先生を信じて治療を受けてくれるので,先生の思うような治療ができるようになるであろう.当然,医療人としての責任と患者の期待も大きくなることを忘れてはならない.
     毎日の臨床に真剣に望み,失敗から学び,先人たちの知識を基に経験をエビデンスに変えて,次の世代の若手歯科医師として活躍することを期待している.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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