Doctorbook academy

湯本 雅一

支台歯歯周組織の改善に考慮した一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2010年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201003.pdf

#支台歯歯周組織 #歯周外科 #歯周治療と補綴治療

【患者】
49歳,女性.非喫煙者.初診日は2007年4月10日.
職業は会社員で,まじめで,おとなしい性格の持ち主.
基本的には保険診療による治療を希望している.

【主訴】
1週間前からの左下8番の疼痛および歯肉からの出血を主訴に来院された.既往歴に特記事項はない.

【歯科既往歴】
今まで対症療法的な歯科治療を受けてきており,本格的な歯周治療を受けていない.
歯科に対する意識や知識は高いとはいえない.

【診査・診断】
 歯周組織のバイオタイプはthick-flatであり,歯肉の発赤,腫脹がみられ,臼歯部において6mm以上のプロービング値,そしてプロービング時の出血を認めた.
とくに右上7番はkey tooth であり,不良補綴物の存在,エックス線写真上で骨吸収像,歯石の沈着を認め,さらに前歯部開咬であることから,臼歯部に咬合性外傷が加わりやすく,主訴である左下8番よりも多くの問題があると判断した.その点を患者に説明し,主訴への対応後,治療を行っていくこととした.

【治療計画】
 右上7番は歯周病の問題,不良補綴物の問題が大きいと判断.補綴物を除去し,初期治療を行い,その後の再評価の状況により歯周外科を考えていくこととした.右上5番7番は不良補綴物から暫間補綴物に置き換えると同時に,歯肉縁下のスケーリングを行っていった.右上8は対合歯がなく,右上7番への清掃性の配慮から抜歯が妥当であると判断し,抜歯を行った.
 初期治療より6か月経過後,再評価において右上7番近心のプロービング値は6mm.歯周組織のタイプがthickflatであり,非外科的治療の効果が得られにくく,またポンティック部の軟組織が厚く,不良形態を呈し,歯周ポケットの減少を困難にしていることから,歯周外科処置が必要と判断した.

 浅いプロービング値の獲得,メインテナンスしやすい歯肉形態を目的として,フラップキュレッタージ+ウェッジ手術を選択した.ウェッジ手術はペディクル切開法にて行った.
右上5番7番は口蓋側隅角部を結ぶ一次切開を加え,フラップを剥離し,フラップ内面の厚い軟組織の中そぎによる厚みの修正を行った.歯周外科より4か月経過後,再評価を行い,補綴処置へ移行した.右上7番近心のプロービング値は3mm.現在メインテナンスを行いながら,経過観察している.

【自己評価】
 10点満点で6点.
術前と比べ浅いプロービング値が得られ(外科1年後の右上7番近心のプロービング値は3mm),清掃しやすい歯肉形態になった.
外科術式は歯周ポケット除去には歯肉弁根尖側移動術が有効だが,本症例で行うと歯根露出が大きくなり,それを被覆するための支台歯形成により抜髄の危険性が高くなる.
 前歯部開咬のため,臼歯部に咬合性外傷が加わりやすいので支台歯を有髄のまま維持し補綴することが重要と考えた.
ポンティック部の軟組織が厚く,骨形態も浅いクレーター状欠損程度であったのでフラップキュレッタージ+ウェッジ手術にて効果が得られた.
歯周治療と補綴治療は互いに補完しあう関係にあり,双方の観点から考えることが大切である.反省点は厚い歯肉にもかかわらず歯周外科後の治癒期間を十分に経過観察せず,4か月程度の短期間で補綴処置へ移行してしまった点である.

【今後の課題】
①適切な診査にともなう正確な診断の確立,
②診断に基づいた歯周治療と補綴治療のバランスのとれた治療計画の立案,
③治療計画を遂行する臨床手技の精度の向上,
の3つをめざして日々研鑽を積んでいきたいと考えている.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 夏堀 礼二

     全体像がわからないため局所的にみてコメントさせていただく.
    動機付け後の初期治療, 右上8番の抜歯は清掃性の向上のため必要であると考える.またブリッジの支台歯となる右上7番の欠損側にあたる近心側に水平性の歯周ポケットが存在し,厚い歯周組織ということもあり歯周外科が第一選択となろう.
     その術式はウェッジ手術と口蓋歯肉に対するパラタルアプローチを併用したフラップキュレッタージがもっとも安全で有効な歯周ポケット除去の術式と考える.そして,右上7番 を生活歯のままブリッジの支台歯としたことも予後を考えるうえで重要である.
     初診時正面観から,前歯部の開咬が認められ,アンテリアカップリングが確立されておらず,側方運動時の小臼歯部への負担が疑われる.また上顎前歯の唇側辺縁歯肉の炎症が著しく,これは単純にプラークコントロール不良のためか,他に原因がないのかなど,もっと詳しい情報が知りたかった.術後1 年のデンタルエックス線写真から炎症のコントロールは十分に奏効したといえるだろう.今後の継続的なメインテナンスセラピーにより,治療結果を長期的に維持していけると思う.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 夏堀 礼二

     本症例のように,デンタルIQ の低い歯周病患者に対して, 動機付けを含めた初期治療がもっとも重要であり,ここで初診の状態,放置した場合のリスク,治療計画,再発のリスク,メインテナンスの必要性などを詳しく説明し,同意はもちろんのこと,十分に理解をしていただいたうえで,治療を開始しなければならない.
     術後1年の口腔内写真で上顎前歯部歯肉に若干の発赤がみられるが,治療終了後,最初の頃のメインテナンスで問題がない場合,往々にして患者は中だるみで,ついついプラークコントロールが不十分になることが多い.
    患者も補綴治療した上顎右側のみに集中していたかもしれない.初診時の診断で,前歯部の発赤はプラークが原因だろうが,二次的要因として,不良補綴なのか口呼吸なのかも診査し,計画に加味していかなければならない.
     また,保険診療とはいえ, 右上5のマージン適合はやや難があるし,術前の咬合様式,咬合面のファセット,歯の動揺度,パラファンクションの有無などの記載がなく,最終補綴の製作時の咬合様式および装着時の調整なども触れていればなおよかったと感じた.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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