Doctorbook academy

田治米 元信

幼少期からのコンプレックスを改善させた審美修復治療

<この症例はザ・クインテッセンス2014年1月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201401.pdf

#エナメル質形成不全 #ラミネートベニア修復

【患者】
19歳,女性,比較的大人しい大学生.

【主訴】
幼少期より前歯の見た目が気になる(エナメル質形成不全).

【歯科既往歴】
前歯の審美改善のため,費用的な問題も含めていろいろな歯科を受診されている.

【診査・診断】
 顎関節に問題はなく,咬合関係に関してはやや左右2級で,上顎前突の傾向があり,上下顎中切歯歯間離開が認められる.
咬合平面,上顎の切縁ラインに大きなズレが生じているため,矯正治療後の前歯部ラミネートベニア修復のカウンセリングを行った.
 前歯部の離開部分を補綴処置のみで修復すると歯冠長,歯冠幅径のバランスが崩れる可能性があるので,矯正治療からの治療を説明したが,残念ながら患者の理解を得ることはできなかった.

【治療計画】
 患者は矯正治療を拒否され,費用の問題から保険治療での6本のレジン充填のみ希望された.
充填6か月後,審美改善のため再来院.矯正治療は再度拒否された.
矯正治療しない治療計画として半調節性咬合器に装着した診断用ワックスアップ模型を患者にみてもらい,モックアップにて口腔内に装着し前歯の完成イメージを確認してもらった.
 筆者が注意した点が2つある.1つは,瞳孔線に対して傾斜している切縁ラインをどこまで揃えることができるか.
もう1つは,エナメル質形成不全の歯に対してどこまで削除が可能で,その後の接着はどうなのか,という点である.
1回目の形成後,できるだけエナメル質を残すように形成をしたがプロビジョナルレストレーション装着後,知覚過敏症状がでた.
症状が落ち着いた後に,ハイスマイルに対しての歯肉整形処置を行った.最終形成時にインサイザルエッジプレーンを正中線と垂直になるように意識しながら形成し,その後,印象採得を行った.
咬合に若干の心配があるため,プレスセラミックベニア(e-Max)を装着,Variolink®Veneer Medium Value0 にて合着させた.
術後1年半,患者は非常に満足され,経過も良好である.

【自己評価】
 他院での過去の充填物に対して,形成をどこまで削除してよいのか目安をつけることが難しく,深く削りすぎた箇所もあり,形成にもう少し繊細さが必要であったと思う.
また,矯正治療をせずに咬合平面を変えることなく6前歯のみで修復したことで,将来的に破折やマイクロリーケージを予測しておかなければならない症例となった.

【今後の課題】
 矯正・咬合に対する治療計画の立案不足,ワックスアップとモックアップ,プロビジョナルレストレーション,最終補綴物との相互性がとれていない点を反省しなければならない.

この症例へのコメント

  • 千葉 豊和

     本症例は,左右犬歯関係が2級,臼歯関係はend on,前歯部スペースドアーチであることからも,やはり矯正治療を介入させることが機能的,審美的観点から見てベストであろう.しかしながら今回のように患者に受け入れられず,限られた条件下での治療を余儀なくされることは臨床上多々遭遇する.この場合,事前にどこまでが治療可能であり限界がどこかを把握するための診査・診断がもっとも重要となる.
     顔貌所見は,正面観で口唇との関係がガミースマイルの傾向がみられるものの,側貌においては極端な上顎の突出感はみられず,わずかに下顎劣成長傾向であるが,側貌観は正常範囲内と捉えられる.
     このことから,前歯部空隙歯列に対して,最終歯冠形態のバランス如何では補綴治療のみである程度の結果が得られ可能性がある.そこで,診断用ワックスアップにより歯冠長径,幅径のバランスを適切に付与することが可能であるか,さらには歯周組織を診査し,辺縁歯肉の位置が変更可能かどうかを診断することが最重要事項となる.

    <このコメントは2014年1月号ザ・クインテッセンスに掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 千葉 豊和

     本症例の診断用ワックスアップは,形態的なバランス,辺縁歯肉との位置関係に対する診査,問題点に対する解決案をもう少し細部にわたり考え,治療計画を考慮したワックスアップとすべきであったと思われる.
     結果として,上顎6 前歯は患者の満足を得られたが,もう少し歯間乳頭の成長を考えた歯周組織の管理,最終補綴物形態を考慮に入れた支台歯形成などの個々の手技に対しては熟考すべきポイントがある.また,全顎的な問題点に対する解決がされていたのかどうかについては疑問が残る症例のように感じる.
    <このコメントは2014年1月号ザ・クインテッセンスに掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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