患者の物語性を重視したナラティブアプローチ ─顎関節症の改善を試みた一症例─
<この症例はザ・クインテッセンス2010年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201006.pdf
#ナラティブアプローチ #顎関節症 #認知行動療法
【患者】
30歳,女性.
【主訴】
食事の際,左顎が痛い.口が開けづらい.また,開口障害のため,心理面で落ち込んでいる様子がうかがわれた.
【歯科既往歴】
4年前から口が開かなくなり,どこの病院に行って治療しても治らず,「これ以上よくならない」といわれた.あきらめてはいるが,開口不十分で食事に不自由を感じている.
【診査・診断】
開口時左側TMJ痛(+)開口量22mm開口時下顎切歯左側へ偏位左側顎関節触診 圧痛(+)筋の触診圧痛点:左側咬筋,左側胸鎖乳突筋,左側側頭筋硬結部:両側咬筋,左側胸鎖乳突筋,左側側頭筋
①身体面:左側顎関節部クローズド・ロック,左側咬筋,胸鎖乳突筋の筋筋膜痛
②心理面:失感情症傾向(自分の気持ちや感情をうまく表現できずによい子を演じてしまい,自分を抑圧する傾向),抑うつ傾向の可能性.
・認知モデルを利用した診断
話をうかがったうえで,この患者の物語を認知モデル(患者の感情面での情況を単純化してパターン化する方法)にあてはめてみた.さまざまな状況に応じて感情の変化が生じ,行動,身体症状が現れている.
【治療計画】
①身体面:術者による左側顎関節部マニピュレーション,スプリントの夜間装着による就寝時食いしばりによる関節負荷のコントロール,本人の開口訓練,昼間の食いしばりの防止.
②心理面:患者個々の物語性を重要視したナラティブアプローチ,認知行動療法による認知(考え方)の修正.
【自己評価】
患者は心理的アプローチによって補強された身体的アプローチにより,かなり早期に改善した.もしもナラティブな心理的アプローチがなかったら,筆者の身体的アプローチを受け入れてくれたかも不明であるし,仮に身体的アプローチにこぎ着けたとして もセルフコントロールの達成は難しかったかもしれない(なお,筆者の診療方針により,補綴治療を行っていない患者の術後写真は撮影していない).
【今後の課題】
このケースを通して,①人は病気の経過のなかで,環境,状況に応じて感情が変化していき,行動に影響を及ぼしている.②人は物語のなかに生きており,患者の語りを傾聴することは,患者の物語づくりの助けになっていることを再認識した.今後も患者のナラティブを大切にした診療を行っていきたい.
ザ・クインテッセンス本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
この症例は私の診療所にも比較的多いタイプの方だと思う.身体化による症状ではなく,明らかに身体疾患であるが心のなかに問題を抱えていて,その内圧の噴出口 として顎関節症状が選ばれているようだ.したがって,開口時疼痛や開口障害という訴えをすることで心の平衡を保っていたようだ.こういった患者に対してNSAIDsの投与や理学療法,セルフコントロールの指導だけでは本当の問題解決にならない.仮に症状がとれてもそれは一過性に過ぎず,すぐに再発する傾向がある.根本的な対処法として心理的なアプローチが必須なのである.この症例報告ではそれらの問題を根本から解決するようなシステムづくりに成功している.
<このコメントはザ・クインテッセンス2010年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
症例の記録づくりがずさんなようにみえる.カルテだけでなく,口腔内写真やエックス線写真など証拠となる記録をしっかりと残し整理することで,自らの過去の技術を評価できる.再評価を繰り返すことで問題点を発見し,つぎの症例に重ねるとよいと思う.さらに,歯科臨床と心の問題は精神疾患による身体化と臨床心理学の間の境目が曖昧な部分があり,心理学に傾きすぎるのもどうかと思う.同じような症例であっても, 身体化と心身症の間の線は,時期や環境変化などによって揺れ動くようなので,この問題を考察を重ねて,著者自身の対処法を創案するべきであろう.
<このコメントはザ・クインテッセンス2010年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
症状から考えると、左噛みが強すぎるだけだろう。右噛みにするだけで痛みの頻度は減少すると思う。ただ、長いスパンで痛みが出ているので、ナイトガードの製作と、夜間だけでなく、食いしばりしている時に使用してもらう事で回復が期待出来る。心理的要因なせいにしてたら、ネガティブな考えの殆どの患者がそうなります。
自分がこうした患者さんに説明する時は、
平均寿命で考えると後50年使うのを目指さないとならない歯なので、筋肉や関節を慰って貰わないと抜かないとならなくなります
という様な事を患者教育として指導してます。
誤診せず、理解しやすい説明をする事を心がけて行けば、8028が普通になる時代が来ます。