全顎治療における1歯治療の重要性
<この症例はザ・クインテッセンス2010年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201011.pdf
#主訴 #根管治療 #オールセラミッククラウン
【患者】
59歳,女性.専業主婦.初診日は2005年3月.ご主人のご紹介で当院を来院.真面目でおっとりとした方だが,その反面頑固な部分がある.
【主訴】
左上奥から3番目の歯が痛むことがある.来院される前の週に食事をしていて痛くなった.その後,症状はいったん落ち着いたが,また痛みが出るのではないかと不安を抱えて来院.
【歯科既往歴】
患者は海外に滞在歴があり,主訴である左上5番は20年ほど前に米国で根管治療を行い,その後,痛みがでて日本で再治療を行ったという.帰国後は,都内の歯科医院をかかりつけとしていたが,閉院してしまったとのこと.
【診査・診断】
患者は急性症状を呈していなかったため,まずは診査を先に行うことに同意をいただいた.歯科医師は口腔内チャートおよび模型製作,デンタルエックス線 (14枚法)撮影を行い, 歯科衛生士はプロービングデータの採取,口腔内の清掃状況を調べ,それぞれ診査を行った.う蝕,不良修復物,アンテリアガイダンスの欠如,下顎臼歯部のパーフォレーションなど,他の部位にも問題点がみられた.
【治療計画】
主訴である左上5番に関しては大きな根尖病巣は認められないが, ファイル破折片があること,根尖相当部までしっかりと根管充填が行われていないことが明らかとなった.しかし,プロービングデプスは3~4mmであったため, 歯根破折の可能性は低いと判断した.患者にはまず主訴である左上5番はファイル破折片を除去し,根尖部までしっかりと根管充填を行う必要がある旨を伝えた.さらに,先に述べた他の部位の問題点を説明したところ,最終的には外科処置を含めた全顎的な治療を希望された.まず,主訴である左上5番をプロビジョナルレストレーションに置き換え,その後根管治療を行った.この際,治療効率を考えて左上4番も同時進行とした.その後,不良修復物の除去,う蝕のコントロール,根管治療,上顎臼歯部のフラップ手術,下顎左側臼歯部のインプラント治療など,他の部位の治療を進めた.最終的な補綴は,支台築造はファイバーポストコアを用いた直接法で,また小臼歯部までをオールセラミッククラウン修復,大臼歯部はメタルセラミッククラウン修復とした.
【自己評価】
本症例は,筆者が卒後5年目に行った症例である.当時は全顎的な治療の経験が浅く,このような大きな治療の進め方に苦労した.ゆえに,治療開始から終了までに1年以上を要してしまい,大きな反省点であった.今思えば,もっと効率よく治療が行え たのではないかと思う.また,補綴デザイン,材料の選択などにも反省すべき点が多々あると考えている.
【今後の課題】
1歯1歯の処置を確実に,かつていねいに進めていくことを常に念頭に置いて治療を行っているが,時にメインテナビリティを優先すべき部位に審美性を優先してしまった 補綴物をセットしてしまうなど本質を見失うことがある.今後は,バランスのとれた歯科治療を旨に,診査・診断能力のさらなる向上に努力をしていきたい.
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この症例へのコメント
主訴である左上5番の1歯のみに治療が終始することなく全顎的な問題点にも目を配り,治療を成し遂げたのは日頃から診査・診断を徹底しているからに他ならないであろう.
また,文中にもあった通り,左上5番の治療に最善を尽くしたことにより他の部位の治療も円滑に進められたと考えられる.まさにこの企画趣旨である1歯の治療にこだわっているからこそ卒後5年という時期にこれだけのケースをまとめられたのであろう.
できれば左上5番の根管治療での破折ファイルへのアプローチ方法や根管内の状態の詳しい説明がほしいところである.左上5番の咬合状態のデータやコメントも合わせて述べられていれば,主訴との関連性もわかりやすかったのではないだろうか.
誌面の都合で詳しく述べられていないが,症例写真からも歯周治療からインプラント,審美修復に至るまでさまざまな治療オプションをマスターし,患者とのコミュニケーションが十分に図られていることがうかがえる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2010年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
本人も反省点に挙げている通り,このような全顎的な治療の経験が少なく,頭ではわかっているつもりでも実際の治療においては思うようにいかないことが多かったのは事実であろう.誰しもが感じることであり,それが経験というものかもしれない.だからこそ適切な診査・診断・治療計画をもとに治療を行い,そこには治療順序の組み立てやそれを実践できる技術が備わっていなければならない.
本症例でみれば,オールセラミッククラウンにて修復を行ったとあるが,支台歯形成はそれにみあったものになっていないようにみえるし,本人の言う通り修復物の形態には清掃性の配慮も必要であろう.
また,治療前に歯列不正や咬合状態の問題等をどこまで把握して治療計画を立てたのかを自問してほしい.果たして単なるう蝕の多い患者,再治療が必要な患者というカテゴリーの治療であったのだろうか.
自身でとった診査データをもっと深く読み取り,考えを巡らせ,自身のケースを顧みることも忘れないでほしい.臨床経験も10年目になり,その間,寺西邦彦先生をはじめ多くの先輩からたくさんのことを学んできたと思う.診断力も治療技術もかなり向上してきたのを間近でみてきたが,さらに上を目指して努力を続け,今後は後輩たちを導いていく存在になってほしいと願っている.
<このコメントはザ・クインテッセンス2010年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>