Doctorbook academy

関根聡

生物学的幅径獲得のための歯肉弁根尖側移動術 ─治療経過とともに訪れた患者の変化─

<この症例はザ・クインテッセンス2010年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201012.pdf

#生物学的幅径 #歯肉縁下う蝕 #歯肉弁根尖側移動術 #患者とのコミュニケーション

【患者】
58歳,女性.喫煙者.初診は2007年1月,歯科医院受診は10年振りとのこと.当初患者からの要望は少なくおとなしい印象であった.主訴以外にも歯肉の腫脹,前歯部の審美障害,臼歯部の欠損などを以前から気にされていた.今回補綴物の脱落をきっかけに意を決し,全体の治療を希望し来院された.

【主訴】
左上3番のクラウンの脱離.同部は数か月前から歯肉の腫脹や鈍痛を繰り返していた.

【歯科既往歴】
30代頃,う蝕により臼歯部を抜歯され部分床義歯を製作するも違和感が強く使用しなかった.その後は症状があった時のみ歯科医院を受診し,そのつど部分的な治療を受けていた.

【診査・診断】
患者は歯周炎や臼歯部欠損の放置により咬合崩壊をきたしていた.上顎前歯部は歯槽骨をともなった挺出を認め,深い歯周ポケット,根尖病変,不良補綴物および二次う蝕を認めた.全顎的な治療介入が必要であると考え,臼歯部の咬合支持の確立とともに上顎前歯部の治療を行った.上顎前歯部については歯周ポケットの除去,歯肉縁下う蝕によって侵襲された生物学的幅径の獲得およ び健全歯質によるフェルール獲得のため骨外科処置をともなう歯肉弁根尖側移動術を行うこととした.

【治療計画】
患者は,今回はしっかり治したいという意識が強く,熱心に説明を聞いており,その後のホームケアも積極的に取り組まれていた.しかし,手術に対する不安は依然とし て強かったため,数回に分けて部分的に繰り返し説明を行った.

【自己評価】
歯周ポケットの除去,生物学的幅径の獲得, 健全歯質によるフェルールの獲得が達成できた.しかし術後の正面観からもわかるように両側上3番の歯肉ラインに非対称性を認める.これは骨の削除量を決定する際にサージカルステントを用いてより厳密に行うことや,その後の形成,圧排操作時に辺縁歯肉にダメージを与えないよう慎重に行うことが必要だったと考える.またメタルポストによると思われる歯肉の暗さを認めるため,今後材料の選択にも配慮したい.

【今後の課題】
今まで同様,1つひとつの手技を丁寧に行い,さらに確実な結果がだせるよう研鑽を積んでいきたい.それとともに自分にとっての課題である包括的な治療計画におけるゴール設定や,治療順序,治療期間の問題などにも意識を払い,日々の臨床に取り組んでいきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 吉野敏明

     非常に基本に忠実かつ丁寧な治療を行っている.著者は両親とも開業医の歯科医師として二世であり,また口腔外科出身であるので,本人の努力と環境に恵まれ,非常に包括的な見方で歯科診療を捉えていると思う.能力とエネルギーのある者ほど,自己流になったり,端折ったりすることがあるが,著者は自分の強いエネルギーを基本に忠実になることに専心しており,頭の下がる思いである.
     本症例では,患者さんの熱意と誠実さに助けられ,著者が描いた治療計画にほぼ沿った形で進められた.いいかえれば,著者には立てた治療方針と結果について,言い訳ができない状況であった.
     本稿では前歯部の処置にフォーカスを当てているが,実際は両側下顎臼歯部
    のGBRおよびインプラント埋入,下顎臼歯部天然歯の再生治療,そして下顎前歯部の矯正治療も行っている.トータルの診療のなかで,歯周治療,補綴治療,矯正治療の各々の役割と順番を見定めることができたからだと思う.今後の著者の伸びしろを感じさせる非常によい治療であると感じた.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 吉野敏明

     一方で,これだけの咬合再構成をともなう全顎治療において、術前の咬合診断とその理論的根拠に少々欠けるきらいもある.本症例では医学的見地からも患者満足からしても,結果として非常によい結果が得られているが,全顎にわたるすべての症例でこのような経験的アプローチがうまくいくとは限らない.
     咬合高径とその挙上量の決定と術式は,常に討論の対象となるところである.セファロ分析,顎機能検査,スプリントによるフィードバック法など,Try & Errorをして,自分の臨床に取り込み,そのなかで経験によって補正をかけていくことが早道であろう.もっと咬合を含めた,補綴治療の基本と顎関節治療の基本を徹底すれば,結果オーライと批判されることも少なくなるはずである.
     この分野は歯科技工士との連携が避けられない.幸い,著者の診療所には優秀な歯科技工士が存在するので,お互いの臨床をぶつけ合い,切磋琢磨していけばよいであろう.また,補綴物のみならず,軟組織とそれを支える硬組織までの審美を含めた骨削除,軟組織の切開と縫合など,歯周外科においても経験と努力によって伸びるであろう点も散見する.著者は素直で努力家であるので, 諸先輩方にご指導をいただいていれば,必ず結果はついてくるであろう.今後の活躍を祈念する.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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