治療期間の長期化からみえた課題 ─歯周治療と骨移植症例を通して─
<この症例はザ・クインテッセンス2011年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201103.pdf
#自家骨移植 #垂直性骨吸収 #生物学的幅径 #リエントリー
【患者】
55歳,女性.職業は事務員.性格は温厚で真面目,自己主張はあまり強くない印象を受けた.喫煙は1日10本.
【主訴】
歯周治療を希望し来院.右上5番が頻繁に腫れるという.最近になり前歯が出てきたとの訴え.
【歯科既往歴】
20歳前後から歯周病を指摘され,ブラッシングには気をつかっていたが徐々に抜歯になったという.治療は急性症状がでたときのみの投薬とポケット内の洗浄のみにとどまり,歯周治療の既往はない.
【診査・診断】
主訴の右上5番は模型診査にて早期接触を認めた.同歯遠心部には7mmの深いポケット,右上6番の遠心根歯は根尖部付近に及ぶ大きな骨欠損を認め,ポケットも6mmであった.前歯部のフレアアウトもあり,臼歯部の咬合支持の喪失による咬合の低下が考えられた.また過度のブラキシズムを認め,患者自身も自覚していた.
【治療計画】
当該部の骨の喪失は大きく,動揺もⅡ度であったため,インプラントによる補綴が予知性の高い治療と説明したが,患者の希望や生活背景などを踏まえ,歯周外科処置および補綴による保存的治療を行うこととした.上顎は右上6番,下顎は右下5番までの短縮歯列を治療ゴールとし,ナイトガードを併用することとした.
初期治療後,ブラキシズムへの対応としてナイトガードを装着した.少しでも欠損を浅くするため右上5番は自然挺出を試み,その後オープンフラップデブライドメントと自家骨移植を行った.その際,右上6番の遠心根を保存不可能と判断し抜去した.術後3か月から挺出により生じた近心傾斜を是正するためのMTMを行い,暫間補綴にて連結固定を行った.術後8か月で暫間的にメタルによる補綴を行った.その後,仮着の状態で経過観察を行った.
6か月の経過観察の後,エックス線診査で骨頂の歯槽硬線が確認できなかったためリエントリーを行い,骨の生理的形態の回復を目指した.自家骨移植部位には骨様の硬組織の形成を認めた(同部の黒色は移植の際,歯面処理でのテトラサイクリン使用によるものと考えられる).フラップは部分層で剥離し,骨整形後,生物学的幅径を考慮し,骨頂から3mm 上方に位置づけ骨膜縫合を行った.術後1か月で最終補綴物を装着.歯周補綴的観点から右上6番5番4番を連結とした.
【自己評価】
治療の効率が悪く,全顎の治療終了まで3年以上の時間を費やしてしまったことは大きな反省点であり,外科処置の正確さも欠いていると感じる.治療結果はおおむね良好であり,患者自身が満足している部分はよかったと感じる.
【今後の課題】
今回の一番大きな反省点である治療期間の長期化は診断・治療計画の判断の甘さが招いた結果であると思われる.治療技術はもちろんのこと,患者全体から一口腔内,1歯まですべてを見る目を養いたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
臨床にでてからすぐに自分の行った治療の資料をしっかりと採り,見直して評価している点はすばらしい.総合的な観点から,インプラント治療が予知性の高い治療とあるがはたしてそうであろうか.インプラント世代の若い歯科医師はインプラント治療を第一選択にする傾向にあるが,本来はいろいろな治療のなかの1つのオプションに過ぎない.本症例においてインプラント治療を適用する場合, 抜歯後にサイナスフロアエレベーションやGBR を行う必要があり,失敗したときのリスクや,そのリカバーなどの知識と技術を事前に身につけておかなければならない.それらのイメージができて初めてインプラント治療を行うことができる.実際には,費用の面からこの患者はインプラント治療を受けなかったわけだが,歯周治療と骨移植を行った結果,歯を保存でき,現在も口腔内で機能していることをこの症例で学んでほしい.
診断としては,最初の段階でもポケットが浅く,う蝕にもなっていない右上4番を削合しプロビジョナルレストレーションで連結しているが,最終補綴物は単冠処理をしているのはなぜだろうか.できれば,右上4番を削合するのではなく,右上6番5番のプロビジョナルレストレーションにメッシュワイヤーを内蔵し右上4番の舌側に伸ばし,スーパーボンドで接着して経過観察することを第一選択としてほしい.また,バーティカルストップの役割を果たしていた右上4番をプロビジョナルレストレーションに置き換えたことにより咬合高径の低下が認められる.天然歯を削るときは「本当にこの歯を削っていいのか? 自分の診断は間違っていないのか?」をつねに自問自答し,診療を進めてほしい.
手技の点をいえば,切開や縫合糸の選択など,改善点はあるものの,自家骨移植した右上5番に再生が認められるのは,きちんと掻爬が行われ根面処理ができているということであり,動揺度がⅡ度であった歯を助けることができたのはすばらしい.しかし,初診時に右上3番の遠心口蓋側に6 mm のポケットが存在し,リエントリー時にも骨欠損が残っている.木を見て森を見ずとはこのことで,当該歯に集中するがあまり,他の歯の病態を把握できていない.歯周外科処置を行う直前に,術部と周囲の歯をボーンサウンディングすることにより,麻酔が効いた範囲の骨レベルで診査ができる.歯周外科処置を行う前は必ずプローベを持つことを習慣づけるとよいだろう.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
文献を読み,歯周治療に関して研鑽を積むことを続けていくのはもちろん大切であるが,われわれGP は総合的な治療が求められる.歯周治療や外科処置に専念するのではなく,治療の根幹となる歯内療法を極め,最終的に患者の口腔内で機能する補綴設計を行い,自分の行った治療が長期的に口腔内で機能するための知識と技術,そして経験を積んでいってほしい.術者を信じて治療させてくれる患者に対して最大限の努力をし,“歯を保存する”ことを念頭に置きながら,今後出会うであろう多くの患者に対して,総合的な診断力・技術力をつけ,貢献してほしいと願う.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>