矯正治療後の歯肉退縮へのアプローチ 結合組織移植による根面被覆
<この症例はザ・クインテッセンス2011年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201105.pdf
#歯肉退縮 #根面被覆 #CTG #矯正治療
【患者】
33歳,女性.性格はおとなしい.精神科に通院していた既往があるが,治療への協力度も高く,コミュニケーションはしっかりとれる.
【主訴】
下顎右側の顎の痛みで来院.智歯からくるものと思われ,数か月前から鈍痛があったとのこと.
【歯科既往歴】
いままでかかりつけの歯科医院はなかったが,今後は定期的に口腔内を管理してもらいたいとのこと.
【診査・診断】
矯正治療後, 前突感・歯列不正においては改善をみられたが,左下5番6番に歯肉退縮とそれにともなう知覚過敏が発現してしまった.原因としては矯正力の過度な付与,咬合力の増加,ブラッシング圧なども考えられるが,急激な咬合の変化による代償と判断した.結合組織移植による根面被覆を行い,バイオタイプの変化を狙うとともに今後のさらなる歯肉退縮を予防することとした.
【治療計画】
矯正治療に関しては非常に満足を得られていた.最初は外科治療には少し難色を示していたが,今後のさらなる歯肉退縮を予防するためにも重要であることを説明したところ承諾を得られた.
【自己評価】
歯周外科・矯正の技術ともまだまだ不足しているので,精度を上げていきたい.しかし現在,術部は安定しており,患者にも定期的にメインテナンスに足を運んでいただいている.
【今後の課題】
歯周外科の手技,矯正治療とも技術不足な点が多々ある.患者の要望にトータルでしっかりと応えられ,長期にわたりお付き合いできるよう,技術・知識とも高めていかな くてはならないと感じている.また全顎の処置ばかりでなく1本の歯を大事に考え,研鑽していくことも怠らないようにしたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
矯正前にバイオタイプを改善するのか,矯正後に歯肉退縮した場所のみ根面被覆するのかは,症例によっても異なり,統一見解も得られていない.今回の症例は矯正 前に根面被覆する選択もあったが,矯正後に完全な根面被覆が得られており,歯周治療を第一に研鑽してきた著者の成果がでていると思う.また,100%の根面被覆が達成できたことで,バイオタイプの改善だけでなく,知覚過敏等の症状を解決できたことも評価できる.ただし,移植片が厚すぎたために,移植床の裂開が生じ,また歯のカントゥアに比べ,歯肉のカントゥアが強すぎるため,若干プラークコントロールがしづらくなった可能性はある.術後の収縮も考えてのことであろうが,今後は術前に写真や診断用ワックスなどで必要な歯肉のボリュームを予測してから手術に臨むのはもちろんのこと,厚みのコントロールが難しい口蓋歯肉の採取の手技向上にも努めてほしい.また,結合組織移植に限らず,どの術式を選ぶかが歯周外科を成功させるうえで非常に重要である.口腔前庭の深さ,処置部位(前歯部か臼歯部か),被覆すべき量 などの諸条件により,どの術式を選択するかが根面被覆の成功率に大きく影響する.coronaly advanced fl ap, modifi ed langer technique,envelop techniqueなどには, それぞれに適応症や利点・欠点があるので,もう一度整理してもらいたい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
写真が同じアングルで撮影されていることは評価できる.これからも規格的な資料採取をこころがけ,できればそういった資料を集めて論文にし,歯科界の発展に貢献してほしい.そして,先人から学んだ多くのことを自分自身で研鑽することはもちろんのこと,それをまた後世代に伝えていく姿勢を忘れないよう,筆者も含め今後も努力すべきであろう.今回の投稿は,東日本大震災の直後である.被災者に対して何もできない歯科医師の無力を感じ,人のために身を削って仕事をしている聖職であることを誇りに思っていた歯科医師の限界を感じてしまったのは,筆者だけではないであろう.個人の歯科医院では多額の義援金を 寄付することができないし,スポーツ選手のように国民に向けて個人で強いメッセージを送ることもできない.しかし,国民1人ひとりが,仕事に対して懸命に打ち込み,そしてその仕事に誇りをもつことが,われわれ日本人の“生き方”であろう.最後に,著者と筆者がともに補綴学の基礎を学んでいた20代のころに師から紹介されたDr. Stuartの言葉を稿の最後に添えたい. 「補綴学(ナソロジー)はすべての人間および職業の最高の倫理をも包括する.咀嚼系の治療には無能,言い訳,才能不足,あるいは不器用は許されない」.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>