周囲天然歯保存を考慮したインプラント治療
<この症例はザ・クインテッセンス2011年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201107.pdf
#天然歯保存 #インプラント #サージカルガイド #FGG
【患者】
72歳,女性.初診は2009年10月.性格はおとなしく真面目な印象がある.
【主訴】
破損した上顎部分床義歯の修理と,右下7番6番5番ブリッジ部の動揺への対処.
【歯科既往歴】
2006年ごろ上顎前歯の腫脹を繰り返し抜歯となり,現在の状態に.その後は症状があったときのみ歯科医院を受診し,部分的な治療を受けていた.
【診査・診断】
保存不可能な右下8番7番の抜歯後,全顎的な診断用ワックスアップを行った.上顎治療用義歯,下顎プロビジョナルレストレーションの作製,動揺歯のスーパーボンド固定による咬合の安定化を図り,初期治療(歯周治療,う蝕処置,根管治療)を行った後,右下6番にインプラントを埋入するとともに,骨欠損のある右下5番左下5番に再生療法を行い,経過をみて最終補綴に移行するという治療計画を立てた.
【治療計画】
患者には,上顎に関しては残存歯を生かして部分床義歯,下顎は義歯を避け,残存歯を守るという考えでインプラント治療を提示した. 事前に手術に際し, インプラントの適切なポジションと埋入後の機能を得るために,術前の診断用ワックスアップからサージカルガイドを製作して埋入,同時に右下5番遠心骨欠損部への再生療法,また二次手術時には予知性を考慮し遊離歯肉移植(FreeGingival Graft:FGG )を行うことを説明し,了解を得た.
【自己評価】
たとえインプラント1本であっても三次元的に適切な位置に埋入するには,サージカルガイドは必要なツールだと感じた.また,インプラント周囲には機能面において角化歯肉が必要であった.動揺度Ⅱであった右下5番に対しては,まず右下3番4番5番をスーパーボンドで固定し,その後右下6番へのインプラント埋入と同時に右下5番に再生療法を行った.そしてインプラント部にも咬合を与え,経過をみて右下5番の動揺度・プロービング値が安定してきたところで補綴操作に移行したが,右下4番5番で連結補綴にするか悩むところであった.最終的には,右下8番7番のみの抜歯で,できるかぎり歯を残したいという
患者の希望に応えられたのはよかった.
一方,外科処置時の切開線の設定,剥離,縫合において精度と根拠が欠けていたと反省している.一口腔内に天然歯,義歯,インプラントと異なる処置を行い咬合の回復を図ったが,今後も安定した機能を維持できるように注意深く観察していきたい.
【今後の課題】
今後も生体組織の保存を念頭に置き,基本的な手技をていねいに行うことを心がけながら,マイクロスコープ,ルーペなど拡大鏡も併用して治療の精度を上げていきたいと思う.そのうえでグローバルスタンダードな治療法も視野に入れ,日々臨床に携わっていきたい.
Doctorbook academy
本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。
あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください
Facebook ログインの確認
Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。
Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。
誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。
この症例へのコメント
本ケースは多くの治療計画が考えられる.とくに上顎においては,まったく異なる治療計画を頭に描く先生も多いかと思う.おそらくこの治療計画は中野先生のアイデアルプランニングではなく,患者の希望を十分組み込んで選択されたものと考える.下顎に関しては,若干異なる考え方をされる先生方もいるかと思うが,おおむね正しい選択であったのではないかと考えられるし,結果も合格点がもらえるものであったと思う.われわれは患者の歯を残すために勉強し努力しているわけで,できるだけ残存歯を残したいといった治療方針は共感できるところと考える.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
“ 歯を残してあげたい” という考え方は共感するが,そこには結果が求められるのも現実である.下顎右側の処置1つを例に上げると,まず歯周初期治療をもっと徹底して行うこと,そして外科処置の基本手技と理論をもっと現実の臨床に生かせるよう, つねに自身に言い聞かせ施術に臨むことが大切である.われわれは日々複数の患者と接する.処置内容はすべてその環境によって異なるものである.すなわち,すべてが応用ということになる.応用はしっかりとした基盤の上に成り立つものである.基本に忠実に,つねに自己評価を繰り返しさらに前進してほしい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>