再生療法後に生理的な骨形態を獲得した症例
<この症例はザ・クインテッセンス2012年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201207.pdf
#歯周基本治療 #再生療法 #生理的骨形態 #歯肉-歯槽粘膜
【患者】
32歳,女性.2010年2月初診.近所の保育園の栄養士である.自宅も近所であるため,当医院には通院しやすく,治療にも協力的である.とてもまじめで穏やかな性格である.
【主訴】
右下奥歯が腫れた.
【歯科既往歴】
高校生のときに第一小臼歯抜歯の全顎矯正をしたとのこと.その後は定期的な通院はせず,主訴の治療の処置のみ行っていた.
【診査・診断】
デンタルエックス線写真にて修復物の不適と根尖部透過像,遠心の垂直的骨吸収を認め,歯周精密検査にて同部位のPDは12mm であり,模型上で咬合診査の結果,咬合性外傷も起こしていた.CT 画像にて歯内- 歯周病変と診断.
【治療計画】
過去に矯正の既往があり,第一小臼歯を抜歯されていたため,咬合支持,咀嚼能率の点において1歯でも多くの歯を保存したほうがよいと説明.患者自身も歯の保存を強く望んでいたため,受け入れてくれた.保存不可能な場合はインプラント治療に移行するとあらかじめ説明したうえで歯周外科処置への同意を得た.
まずは感染根管治療を行い,初期治療後に残存した深い歯周ポケットに対して再生治療を行った.術式としては広くて深い骨欠損が予想されたため,エムドゲイン®,骨補填材,非吸収性膜を用いた.そして8か月後,リエントリー手術時に骨の形態不良を切除,整形すること,浅い歯肉溝の獲得,付着歯肉を獲得することを目的とした骨外科処置,遊離歯肉移植術を同時に行った.その後,プロビジョナルレストレーションにて清掃性と咬合を確認し,最終補綴に移行した.本来なら矯正治療を再度行うべきであったが患者が望まなかったため,局所での治療で対応した.
【自己評価】
歯内療法,歯周治療,補綴治療と,1歯の治療で治療期間が1年半以上かかった.1つひとつの治療ステップ,技術においてまだまだ未熟な点は多々あるが,今のところ経過は良好で患者にはとても喜んでもらえている.
【今後の課題】
診査・診断のもと,治療計画の立案,的確な治療ゴールの設定をはかるためにも,今後もスタディグループに所属していろいろな疑問点など,わからない点は多くの先生にアドバイスをいただき,治療結果の永続性を達成できるように勉強し続けていきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
このケースの感想は「この歯の治療は難しい」.大きな根尖病変に加え,遠心部は根尖を越える骨縁下欠損,また残存歯質も十分で強固とはいえない状態で,資料から診断すると,抜歯の可能性も大きい.一方,患者は少しでも可能性があれば,自分の歯で咬みたいと希望する.われわれ臨床医はその狭間で適切に診断して治療していかねばならない.
この歯を保存する利点は多くあるが,実際には治療途中に保存不可能となるリスクも理解してもらわねば治療を遂行することは難しい.エンド‐ ペリオ病変の治療は,まず根尖病変の改善がはかれるか否かによる.また,その後の再生療法の適応症の選択ならびに歯周外科処置やリエントリーの必要性の判断など,この歯を保存するためには多くの診断や治療が必要で,成先生は1 つひとつの診断や治療をていねいに行い,良好な治療結果が得られたのはさすがである.
またこのケースで重要なポイントの1つは患者との信頼関係にある.これは医院のスタッフ力によるところが大きい.成先生の患者に対する思いをスタッフ全員がもっていることが素晴らしい.このケースは問題点の把握,診断,治療,患者への対応等,すべての条件が揃ってこそ良好な結果が得られた.これもひとえに成先生の真面目で真摯な姿勢のあらわれであろう.
<この症例はザ・クインテッセンス2012年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
今回のケースは1 歯とはいえとても難しいケースである.歯の保存のための的確な診断,そして歯内,歯周,う蝕,補綴治療を適切に行うことが良好な結果を得るためには重要なことであるが,一方,どうしてこのような状態に至ったのかを把握することも大切である.第一小臼歯の抜歯による矯正治療の既往があり,咬合性外傷も認められたことから,矯正治療後の咬合状態や歯軸など,成先生が治療される前に問題があった可能性が高い.また対合の上顎第二大臼歯の挺出がみられることから,最終補綴物の咬合面がやや遠心下がりになっていることなど,咬合状態も含めた力のコントロールが今後重要になるであろう.さらに,CT 画像による根尖病変はかなり縮小しているが,注意深い経過観察が必要である.
1 歯の治療でも1 口腔1 単位の診査・診断が求められる場合が多い.治療を行うか否かは最終的には患者と決定していくものであるが,ドクター側が治療の必要性をしっかりと認識し,治療のメリット,デメリットを患者に理解してもらい,治療を実践することが大切であろう.
<この症例はザ・クインテッセンス2012年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>