傾斜歯を歯周外科治療と アップライトで対応した症例
<この症例はザ・クインテッセンス2013年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201305.pdf
#傾斜歯 #口腔衛生指導 #歯周外科治療 #アップライト
【患者】
66歳,女性.自営業.性格は温厚.非喫煙者.
【主訴】
数年前より左下奥歯に違和感を自覚していたが放置.その後,頻度が増して心配になり来院した.
【歯科既往歴】
歯科医院の定期的な通院はなく,主訴に対する処置のみが中心であった.
【診査・診断】
左下7番は近心面に深い歯周ポケットと歯肉の炎症を認めた.歯は近心に傾斜していたため,自浄性や清掃性が困難となり,8mm の歯周ポケットを形成したと考えた.遠心面・頬側面の角化歯肉の幅は不足していたが,歯周ポケットの形成は認められなかった.咬合平面より歯列の連続性は不自然であり,上顎の総義歯と干渉を起こしやすい形態であった.治療計画として,炎症の除去と清掃性の向上が必要であると考え,初期治療後,再評価を行い,必要であれば歯周外科治療により炎症の除去を行う.また,傾斜した歯に対してアップライトを行い,清掃性を向上させる.プロビショナルレストレーションにて問題がないことを確認し,左下⑤⑦支台のブリッジにて最終補綴を行う.角化歯肉の幅に関しては頬側・遠心の頬棚の立ち上がり強く,幅も狭いため,歯肉の移植は困難であることと,プラークコントロールは良好であるため,計画はしなかった.
【治療計画】
左下6番を喪失後,左下7番にときどき軽度の違和感を覚えていたため,その理由を理解し,納得したかのようであった.治療計画に関しては迷うことなく同意していただけた.
初期治療として,ブラッシングや歯間ブラシの使い方の確認とプラークコントロールの重要性などの教育的指導と,スケーリング・ルートプレーニング,感染根管治療を行った.
その後3か月で再評価を行い,近心に出血をともなう6mm の歯周ポケットを認め,フラップキュレッタージにて対応した.
術式は近心の骨内欠損部の直上を避けるように舌側寄りに切開線を伸ばし,全層弁にて pedicle を形成した.遠心と頬舌側に関しては歯肉溝内切開にて最低限,根面が確認できる程度の歯肉弁を形成し,根面のルートプレーニングと骨内欠損部の廓清後,縫合した.
術後6か月で再評価を行い,プロービングは3mm と安定し,出血もなく,アップライトを2か月間行った.その後,プロビショナルレストレーションにて1か月間経過観察し,最終補綴を行った.
【自己評価】
解剖学的なスペースの関係で,遠心へのアップライトの量は若干少なくなった.臨床的には,生理的な歯肉溝と清掃しやすい歯肉形態,エックス線写真上では骨の再生も認められ,経過も良好である.
【今後の課題】
診査・診断・治療技術も上達したいが,患者がプラークコントロールの重要性を理解して実践でき,それを最低限の治療やメインテナンスでサポートできる歯科医師になっていきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
Doctorbook academy
本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。
あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください
Facebook ログインの確認
Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。
Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。
誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。
この症例へのコメント
著者の水野先生は,Naoshi Perio Club にてともに学んでいる仲で,歯周病学講座出身で歯周病専門医を取得されているということもあり,患者資料の採取,抄録の書き方など,しっかりした形ができており,診査・診断に基づく治療計画の立て方も,奇をてらわずに基本に忠実な先生である.
本症例においても,診査・診断によるグランドデザインがしっかりとしており,炎症の除去,歯牙移動,補綴処置,メインテナンスの流れがはっきりとしている.著者も「患者の訴えをよく聞く」と述べているように,外科処置前の歯肉の状態をみると,その人となりと真摯に患者と向かい合うことによる信頼関係がうかがわれる.昨今は骨欠損があれば何かを入れることが再生療法であるかのような風潮があるが,歯肉のバイオタイプ,ディフェクトアングル,骨欠損形態等を考慮し,切開線・廓清・緊密な縫合・術後管理が確実になされていれば,本症例のように垂直性骨欠損がフラップ手術単独で再生するということを知るべきであり,著者の診断と技術の高さがうかがわれる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2013年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
左下7番近心骨欠損部に対する外科処置,マージンをあえて歯肉縁下に入れず,鼓形空隙を広く取りメインテナンスしやすい形態をつくり上げているが,左下7番近心部に集中するあまり,ブリッジ全体のメインテナンスという観点からみると,危うい感じがする.
左下7番遠心部は,外科処置前の口腔内写真とエックス線写真より厚い歯肉であるため,長期メインテナンスを考えるとより薄くする必要があったのではないか.歯周疾患は部位特異性の疾患であるため,同一歯においても近心は再生療法,遠心はwedge operation による歯肉切除というように,歯面別に考える必要がある.アップライトに関しては,補綴治療終了後のエックス線写真から,左下7番は多分骨質が固く著者が得たい移動量が確保できず,その結果として左下5番遠心部の形態が不良となり,鼓形空隙が狭くなっている.MTM 時に形態不良のインレーを除去して近心移動させれば,よりメインテナンスしやすい形態をつくり上げることができたと思う.
著者には,もう少し視野を広げ,小さな配慮がより安定した環境をつくり上げ,長期メインテナンスを容易にすることを学んでほしい.最後に,左下7番のフラップ手術の結果は素晴らしい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2013年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>