Doctorbook academy

中村貴則

下顎左側臼歯部に自家歯牙移植とMTM を行った症例

<この症例はザ・クインテッセンス2013年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201310.pdf

#自家歯牙移植 #MTM #骨再生

【患者】
2009年9月初診,46歳,女性.家族全員が当院に通院中.若々しく気さくで明るい.仕事が忙しいせいか,診療中に居眠りされることもある.

【主訴】
左下6番がグラグラして噛めない,以前からときどき腫れや膿がでるとのこと.1週間前から噛めなくなったために来院.

【歯科既往歴】
上顎左側前歯部は学生時代に外傷して補綴.その他,う蝕を数歯治療.歯科受診は8年ぶり.

【診査・診断】
治療は数歯されているものの全顎的なう蝕,歯周病の傾向は低かった.咬合状態は臼歯部が1歯対1歯咬合,咬合平面は乱れ,左下6番は交叉咬合,左下5番は舌側傾斜がみられ,改善にはスペースが不足していた.側方運動時に左下6番が干渉.左下6番の頬側中央部の付着歯肉は喪失し,骨は触診できなかった.根分岐部にはプラークや歯石がみられ,歯周検査では頬舌ともに中央12mm 以上の深いポケット,出血排膿もあった.動揺度はⅢ度,根分岐部はLindhe の分類Ⅲ度.エックス線所見では左下6番にう蝕はみられず,根分岐部から根尖周囲に骨の透過像,それを囲むように骨の不透過性亢進がみられた.左下6番は局所的な根分岐部病変が外傷性咬合により二次性咬合性外傷を発症,慢性炎症となり歯髄壊死を起こしたと考えた.

【治療計画】
問題点に対する治療計画として,左下8番を左下6番へ移植,左下5番をMTM,スペース不足に対して移植歯をディスキング,咬合平面の乱れは対合歯の切削を計画した.
左下6番の抜歯2週間後に自家歯牙移植を行った.移植歯周囲の歯槽骨の再生を促すため,左下8番の抜歯窩付近から自家骨を採取し頬側に補填,移植歯は深く位置づけ縫合して1か月固定した.
その後,移植歯の自然挺出をさせつつ左下5番の MTM を行っていった.
MTM 終了後6か月間ワイヤー固定を行った.咬合平面や対向関係を改善するため,左下5番はエナメル質の範囲で咬合調整を行い,左下5番はアンレー,左下6番はクラウンで補綴.左下6番は左下5番の後戻り防止の目的で₅舌側へアームを伸ばしている.
 現在は仮着をして定期的に経過観察を行い,MTM後の後戻りがないことを確認し,清掃性の障害ともなる舌側のアームを短くしていっている.

【自己評価】
現在であれば左下6番の回復力を確認するためにもっと歯内療法を行いながら様子をみていきたい.そこで完全に回復はしないであろうが,ある程度の歯根周囲の骨の回復がなされ,自家歯牙移植の手技が少し簡便になったのではと感じている.咬合状態はできる限り侵襲を小さく考えながら改善させたため,理想的な咬合とまでは至らなかった.しかし,現在移植歯を含めてトラブルはない.CBCT にて確認を行ったところ,移植後1年と4年を比べると,骨の明瞭化や骨の補填をしていない舌側の歯槽骨の再生など,インプラントではみられない生体(歯根膜)の力を感じている.

【今後の課題】
今後も発表する機会を自分に課し,諸先輩方にご意見,ご指導をいただくことで臨床のレベルを向上させたい.そして先輩や仲間と一丸となり歯科界を盛り上げていきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 松井宏榮

     臨床において全顎的な状況と患者要素の把握は重要である.
    この症例において咬合平面の乱れ,補綴されている左側犬歯のガイド,臼歯部の1歯対1歯の咬合関係やペリオ・カリエス傾向の有無の全体像を明確に把握されていることはすばらしく,臨床に臨む基本姿勢が確立されていることが伺える.
     また,問題となる左下6番の根分岐部から根尖に及ぶ骨透過像やその周囲の骨不透過性亢進の原因が何かを明確にし,左下6番の交叉咬合・左下5番の舌側傾斜・左下8番の挺出による咬合関係の乱れや咬合平面の湾曲をどのようにすれば理想とする治療目標に到達できるかを詳細に分析し,治療方針としていることに感心した.
    歯牙移植におけるジグリングや抜歯後の治癒期間との関係,MTM や咬合平面の改善などでの効果的手法の臨床応用やきめ細かい配慮はよい結果を招いている.
     術者も言及しているが,左下6番の根管治療と咬合力の開放による歯根膜組織の炎症の改善を見極める余裕が必要であると考える.自然挺出をともなう力と炎症のコントロールにより頬舌側と根尖部の骨の再生と付着歯肉の回復が得られ,骨不透過像が改善していく治癒機転の条件のなかで移植歯を深い位置に植立しなくて済む可能性がでてくるためである.
     また,どこまでを治療目標のゴールとするかは,術者と患者との期待値と要求度にかかわってくる.左上3番のC型ガイドの強さによる歯肉退縮や頬側歯槽骨の豊隆と臼歯部の1歯対1歯の対咬関係の問題点にどのように取り組むかが今後の課題になると考えられる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 松井宏榮

     中村先生は,火曜会会員の須貝歯科医院に勤務し,臨床基本ゼミ・なんかよう会・もくあみ会,そして臨床歯科を語る会で研鑽を積んでこられたが,卒直後の臨床への考え方はその後に大きく影響し,辿った経験が臨床に有効に活かされていると感じている.
     臨床に対する真面目で真摯な姿勢や基本治療の大切さだけでなく,全体像を俯瞰する治療方針やいろいろな分野の積極的な臨床応用などはこれらの環境から培われたといえる.さらに,立地条件のよい場所に最新の設備で移転開業し,同じ火曜会会員の父親と親子診療という恵まれた環境で臨床を行っている.親子診療もうまく順調に運んでいて,いろ
    いろな研修会・講演会にも積極的に参加されて研鑽を積まれているため,何もいうことはない.後は臨床経験を積むということになるが.
     これ以上となると,今までなしえなかった世代を越えた超長期の臨床経過を確認することができると考えている.臨床のなかで経過観察はもっとも重要であると位置づけているが,今まで同じ基準での世代を越えた長期の臨床経過はあまり発表されていない.親子診療のなかでデンタルエックス線やパノラマやCT,歯周検査や口腔内写真が同じ基準で評価され,臨床経過を観察することができると,患者の小児から高齢者に至るまでの一生を経過観察できる可能性がある.親子診療のすばらしい利点であると考えている.歯科界の発展のためにも先駆けとなって,いつかそのような発表をされることを期待している.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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