Doctorbook academy

筒井祐介

補綴前処置としての歯肉マネジメント ─歯周組織と調和した補綴物を目指して─

<この症例はザ・クインテッセンス2010年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201007.pdf

#歯周組織 #プロビジョナルレストレーション #補綴処置

【患者】
59歳,女性.2008年5月初診.まじめで考え込みやすい性格で,治療方針の決定に時間がかかる.仕事はされているが,1~2週間に1回程度の通院は可能.当初は歯科治療に対して経済的問題を訴えており, 保険診療を希望していたが,審美的要求は高い(金属色のクラスプやクラウンはできるだけ避けたい).

【主訴】
右上4番の疼痛と上顎両側臼歯の欠損を主訴に来院.右上4番は以前より腫脹を繰り返していた.

【歯科既往歴】
上顎両側臼歯部遊離端欠損であるが,3年前に製作した義歯は違和感が強く使えなかったとのこと.ブラッシングの状態は悪くないが,歯科治療に対して積極的ではなく,意識や知識は高くない.

【診査・診断】
エックス線診査の結果,右下5番に根尖病変,軽度の垂直性骨欠損,また右下6番周囲に歯槽頂線の不明瞭な部位が認められる.治療当初から主訴部位のみでなく,右下456番の治療の必要性を患者に説明していたが理解が得られず,上顎の治療のみ行うこととなった.しかし,上顎最終補綴装着後,下顎の治療も希望.不良補綴物除去後,再度歯周初期 治療を行ったが,右下5番に5mmの歯周ポケットと右下6番にⅠ度の根分岐部病変が残存し,また歯肉縁下う蝕を認めた.そのため,歯冠長延長術を兼ねてポケットリダクションを目的とした歯周外科治療と,歯内療法による炎症のコントロールが必要と診断した.

【治療計画】
 本来であればう蝕治療・歯内療法を行った後,歯周外科治療を行うべきであるが,治療期間短縮のためフラップ手術を先行させ,歯肉の治癒を待ちながら歯内療法を行うという計画を立てた.
患者には上顎の治療中から 繰り返し説明を行っていたため,スムーズに治療を進めることができた.患者の口腔内を長期に安定・維持させるためには, 歯周組織に炎症がなく,また補綴物と調和した状態をつくることが重要であると考える.
 そのため今回の症例では,歯周外科治療による根面のデブライドメント・ 炎症性肉芽組織の除去・歯肉縁上健全歯質の確保と, 歯内療法による根尖部歯周組織の炎症の改善が必要であると判断した.そのうえで,プロビジョナルレストレーションを用いて歯周組織と調和した補綴形態を模索する.その際,患者にもブラッシングが重要であることを説明し,指導を行った.こうして印象前に成熟した炎症のない歯肉をつくることが,精密な印象採得につながると考えている.

【自己評価】
歯周外科治療,歯内療法,印象などの1つひとつのステップは,自分の技術の範疇で可能な限りていねいに行った.しかし治療終了時の口腔内をみると,右下6番の角化歯肉が少ないことが気になる.今回は歯周外科治療後のポケットが2mmであることから遊 離歯肉移植術は選択しなかったが,メインテナンスを通して注意深く観察していく必要があると思っている.

【今後の課題】
1歯1歯の治療をていねいに行うように心がけているが,各処置のレベルがそれぞれ低い.手技の精度を全体的に上げていきたい.また,患者に治療の必要性を納得してもらうまでに時間がかかり,治療がスムーズに進まない場合がある.手技のレベルを高めるとともに,患者へのコンサルテーション能力も向上させていきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 白石和仁

     提出された資料からは,エックス線写真の規格性・歯内療法・切開・剥離・縫合・形成・印象・プロビジョナルレストレーション・ダウエルコアおよび上部構造体のフィットなど,基本的治療はどれをとっても著者の目指す「ていねいな治療」を実践していることは見てとれる.テクニック的にも及第点のレベルに到達しているといえるであろう.
     しかし,あえて細かい注文をつけるとすれば,まず臨床歯冠長延長術を行う場合は経験の浅いうちは術前にう蝕部分をすべて除去しておくべきである.術中・術直後に健康歯質を獲得できているようでも歯根は先細りになっていくことから,術後の最終形成でオクルーザルテーブルの厚みを確保するためには予想以上に歯質を喪失してしまう.場合によってはエクストルージョンが必要となる可能性もある.本ケースにおいても最終形成終了時のフェルールが若干足りないように思える.
     また,著者は右下6番の角化歯肉の不足について触れているが, 右下456番ともに不足していることに気づかなければならず, 補綴後の状態を長期的に維持・安定させるためには根尖側移動術も1つの選択肢として視野に入れるべきである.しかし,最終補綴物が審美的なものとすでに決まっていたのなら,部分層弁で行った場合補綴操作が難しくなるため,全層・部分層弁のコンビネーションによる根尖側移動術が妥当であろう.これは右下6番の最終補綴を一度形態修正したところにも関連してくるが,外科後に貫通部の細くなった歯周疾患罹患歯に対して与えるティッシュサ ポートのためのサブジンジバルカントゥアと形成深度の相関関係を理解しておかなければならず,それに加えて外科術式の違いによる形成深度の難易度の違いも理解しておく必要がある.右下6番に関しては形成深度が不足しているため,まだティッシュサポートは十分ではなく形態も改善の余地があるはずである.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 白石和仁

     現時点で自分にできること・できないことを把握して真面目に臨床に臨んでいる点は評価できるし,テクニック的にも及第点のレベルに到達していると感じたが,歯科治療とは医院の総合力が問われる仕事であり,まだまだご両親が築き上げてきた医院のシステムに助けられている部分が多いと思う.
     これを打開するためには現在歯科衛生士や歯科技工士任せにしているであろうこと(スケーリング・ルートプレーニングや歯肉圧排,プロビジョナルレストレーションの製作・調整など)を自分で行うことによって完璧にマスターすることである.いわゆる下請け仕事をすることによって今まで見えていなかった自分に足りないもの,改善すべき点などが鮮明に浮かび上がってくることが多いのだ.それに加えてスタッフの苦労を知り,ご両親の苦労を知ることで院長としての資質も上がってくるはずである.これから,今は亡き父上の臨床をベースに自分自身の臨床を確立していかなければならないわけであるが,そのためにも1本の歯を大切にする心と,そのために必要な基本治療の大切さを忘れずに,このまま真っ直ぐに育っていってほしいと思う.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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