ポーセレンラミネートベニア修復による 正中離開の改善
<この症例はザ・クインテッセンス2010年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201009.pdf
#正中離開 #ポーセレンラミネートベニア #生物学的幅径
【患者】
54歳,女性,非喫煙者.初診日は2008年4月23日.職業は会社員.性格はおとなしく,あまり自分から意見をいわないタイプである.
【主訴】
2週間前から咀嚼時に右下6番の違和感が認められ放置していたが,徐々に咬合痛が生じ当院を受診.
【歯科既往歴】
う蝕治療,歯内治療は疼痛が生じた時のみの対症療法であり,今まで定期的にメインテナンスは受けていない.ただ,患者の口腔内への意識は高く,毎食後のブラッシングは欠かさずされていた.
【診査・診断】
主訴である右下6番の咬合痛は根尖病巣によるものであったたため,感染根管治療を行った.また,並行して歯周組織検査・模型診査・顔貌での軟組織分析を行った.歯周組織検査においては上顎左右臼歯部に4mmのポケットがあるものの,初期治療終了後にはすべて3mm以下となり,動揺もみられなかった.模型診査においても正中離開を引き起こすような前歯部の強い咬合接触,パラファンクションを思わせる歯の顕著な咬耗は認められなかった.また咬合に起因する病的症状は認められなかったため,生理的咬合と判断した.
軟組織の分析についても,咬合高径・E-line,naso-labiale angle,スマイル時のリップラインにおいては問題なかった.コンサルテーションのなかで,患者の正中離開については徐々に上顎中切歯が離開したわけではなく,患者が若 い頃に上顎中切歯間の歯肉腫脹が生じ,その時に前歯が離開し, それから閉じることなく現在に至るということであったことからも,正中離開は咬合の問題,パラファンクションに起因するものではないと診断した.
【治療計画】
正中離開に対して行う治療として,矯正治療,コンポジットレジン充填による修復治療,ラミネートベニアによる修復治療の3つの長所・短所を説明し提示した.患者はラミネートベニ ア修復処置を希望された.前歯部の客観的な審美的条件としてKokichら(1999) は,
①crown length
②crown width
③incisor crown angulation
④midline
⑤open gingival embrasure
⑥ gingival margin
⑦incisal plane
⑧gingival-to-lip distance
の8項目を挙げている.これらの項目の達成には歯科技工士との連携が必要であり,診断用ワックスアップを通じてシミュレーションを行った.
ボーンサウンディング値が約5mmであり,1mm強の歯肉切除を行っても生物学的幅径を侵襲しないと考え,歯肉レベルを整え,上顎中切歯の形態修正を行い,右上1番と左上2番の長径・幅径 のバランス,切端の位置,歯軸,口唇との関係,歯間 乳頭,隣在歯とのバランスをとっていくこととした.
【自己評価】
2本の修復処置であったが,修復物のデザインや形態,正中とのバランス,歯肉の問題など,歯 科技工士と密に連携をとりながら,診断用ワックスアップでシミュレーションを行い,それをモックアップで具現化しなければ患者の満足を得られなかったと感じた.
【今後の課題】
少数歯の症例においても,こだわって診療を行うためには歯科衛生士・歯科技工士との連携は必要であると痛感した. 自己研鑽はもちろんのこと,同じような志をもち,同じ立場で議論ができるような歯科衛生士・歯科技工士とともにこれからの診療に携わっていきたい.
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この症例へのコメント
すべての症例において少なくとも一口腔単位で力の因子と細菌因子,そして生体の解剖学的特徴を把握することが予防と治療に必須である.ところが,その診査・診断と治療計画について学べる機会が少ないのが日本の現状である.
本内容で著者が卒後8年間でかなりの診断力と歯科治療の基本技術を習得していることがわかる.本症例では正中離開の原因を考察したうえに,比較的安定した咬合と判断し,顔貌と口腔内正面観から上顎中切歯と側切歯の大きさの不調和があるため中切歯のサイズアップが可能であると診断している.また,モックアップにて患者さんにも同意を得ながら治療過程で良好な信頼関係を築き,最小の侵襲で満足する結果を出しているところはすばらしい.
しかし,前歯の垂直被蓋が浅く,下顎中切歯の正中が上顎に対して左に偏位しておりアンテリアガイダンスは不適切で,偏心運動時に臼歯部離開咬合が得られていない状態である.左上1番を含めた前歯に咬耗を認め,デンタルエックス線写真にて上顎両側1番と左上2番に軽度の歯根膜腔が拡大していることからもパラファンクションは現在進行形であ ることが強く疑われる.これらを踏まえて切端の位置や 歯の形態を診断用ワックスアップで模索し,とくに今回のケースではプロビジョナルレストレーションの段階で審美面のみならずわずかな咬耗も読みながら形態を煮詰めていく繊細さが必要であった.さもないとセラミックの脱落・破折,歯の動揺・移動,咬合痛などが生じることになる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2010年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
繰り返しになるが,すべての患者さんを顔貌,口元, 口腔内を総合的に診ていくことが大切であり,そのため には少なくとも顔貌および口腔内の写真,エックス線写 真(パノラマ,デンタル),ペリオチャート,そしてスタディモデルが必要である.それらの資料を詳細に分析し,予防・ 治療・メインテナンスに活かしていく.
この総合診断力を養うことで初めて歯科全分野を深めることができ,それは木で例えるならば,見えない根に相当するのが歯科医療哲学や診査・診断力で,見える幹・枝・葉に相当するのが各分野の知識・技術と見なすことができる.診査・ 診断力と知識・技術をともにバランスよく養っていくことで歯科医療チームという木が大樹に成長していくと思う.
著者はその点で双方に目を向け努力しており,勉強会でも積極的に発表している姿をよく見る.しかし,先輩として手厳しく言うならば,基礎資料の読み方,治療 方針の優先順位,周囲の歯を含めた色調や形態の微調整, ポーセレンラミネートベニアのプレパレーションなどで改善すべき点があることが否めない.今回,論文を執筆して自ら問題・修正点に気が付いたことと思う.1つひとつ壁を越えて今後もよりすばらしいチーム医療の実践を期待している.
<このコメントはザ・クインテッセンス2010年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>