Doctorbook academy

佐々木秀典

限られた条件のなかで審美性を得るには ─歯軸の傾斜と顔貌との調和を考慮して─

<この症例はザ・クインテッセンス2010年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201010.pdf

#審美修復 #対称性 #歯軸の傾斜 #サブジンジバルカントゥア

【患者】
28歳,女性.喫煙者.インターネットで審美治療に関して検索され,当院に来院.

【主訴】
上両側1番の審美障害.食事中に右上1番が歯冠破折を起こした.色調も気になるため,左上1番もきれいにしたい.

【歯科既往歴】
過去に数回局所治療を受けるが,治療途中に終わることが多かった.ホワイトニングを2回受けたが,まったく効果がなかった.歯列不正やパラファンクションに対する説明は受けたことはない.

【診査・診断】
上顎咬合平面が反時計周りに傾斜しており,上顎の歯列正中も顔面正中に対して同様に傾斜.上両側1番の歯冠幅径の不一致,左上3番の捻転,乳頭位置の非対称などが審美障害の原因と考えられた.左側には犬歯誘導がなく,また,臼歯は治療途中のままであったため,適切な上下顎第一大臼歯のバーティカルストップがない.最終補綴物への長 期安定を獲得するためにもこの2点の改善が必須となる.さらに,側方運動時に一致する咬耗があり,パラファンクションが存在すると診断されるため,ナイトガードを着用してもらう必要がある.

【治療計画】
前歯部だけではなく臼歯部の治療の必要性を説明.歯軸傾斜の改善や犬歯誘導の獲得には全顎的な矯正治療が必要だが,期間的な問題から拒否された.矯正治療を せずに形態と色調の改善を図り審美性を得るには,上顎6前歯のラミネートベニア修復および歯冠修復が必要なことが診断用ワックスアップからわかった.上顎両側1番以外の前歯の治療を勧めるとともに,永続性を得るにはナイトガードの使用が必要と説明.左上3番は歯冠修復により切削すると抜髄の可能性があるため拒否されるが,その結果,色調的な不調和が生じることを承諾していただいたうえで,左上3番以外の上顎5前歯の修復となり, ナイトガードは着用していただけることになった.

【自己評価】
当初の目的である上顎前歯の傾斜と幅径のバランスを整えることにより,歯の配列のみならず乳頭の位置など,いくつかの対称性を与えることができ,一定の審美性を得られたと考える.しかし,ガイド量と生活歯の形成量の関係から今回のような非対称な切端ライン(歯の形成デザイン)となり,咬合平面全体や口唇との調和をとることができていなかったと反省している.

【今後の課題】
上顎前歯の限局した修復治療といえども,対合歯列との静的動的咬合状態を考慮しなければならず,歯列全体や咬合的に問題のない状態にしなくてはいけない.そのうえで顔面や口唇との調和を考慮した形態の設定,さらなる診査・診断を踏まえた治療を行いたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 貞光謙一郎

     私の医院にも本ケースのように限られた期間内での審美修復治療を希望される患者さんが来院されるが,全体的な機能や構造学的な問題を考えると治療を躊躇する ケースも多く認められる.本ケースでは咬合平面の乱れや, アンテリアガイダンス,ポステリアストップの欠如など, 矯正治療のうえに前歯部修復を行うことが理想であろうが,患者の主訴を優先することも必要であると考える.
    それよりも,卒後7年目の著者が患者の口腔内の全体像を把握し一口腔単位で治療を行おうという姿勢に共感 がもてるとともに,矯正を行わないのであれば左上3番を触らず患者本来の咬合状態を変化させることなく治療を終えたことは評価できる.また,治療の最終ゴールを把握する目的で診断用ワックスアップを製作し,治療ゴールに向かって施術を行われていることから,スムーズに治療が進んだのではないかと考えられる.ただ,誌面の写真では把握が難しく一概にはいえないが,私であれば全体的にもう少し唇側に張り出したような形態にワックスアップを仕上げていたと思う.最終修復物の装着後の写真を観察すると左上3番の突出が気になる.もし0.5mmでも付加的にワックスアップしておけばラミネートベニアに対する歯の削除量を最小限に抑えられたとともに,左上3番の突出感が気にならないのではないかと思う.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 貞光謙一郎

     審美的な改善を行うためには,著者がとられた右上2番3番左上1番2番のラミネートベニア,右上1番のオールセラミッククラウンの選択はもっとも正当性がある治療法と思われるものの,歯質の削除量が気になる.一般的にいわれているプレパレーションガイドを参考にラミネートベニアの形成を行うと,多量の象牙質の露出がみられると考える. 現在は象牙質歯髄複合体という考えから,歯の切削時の象牙質の露出は歯髄への感染ともいわれ,直後に被覆したいところであるが,ラミネートベニア修復においてはとくに接着が重要なことから,私自身も形成時の象牙質への対応には頭を悩ませている.臨床ではできるだけ付加的なワックスアップを行い,フロアブルレジンを流し込み,モックアップとプロビジョナルレストレーションを製作し0.1mm単位でエナメル質を残存させようと考え,隣接面のエナメル質を残そうと唇舌的な隣接の位置関係にも注意を払って形成を行っているのが現状である.本ケースにおいては基本に忠実な形成を心がけていることから最終修復物も審美的なものが装着されているため問題はないと考えられるが,もう少し歯質の削除量を少なくできたのではないかと思う.顔貌から口腔内全体像の把握に努め,基本に忠実な臨床を行う姿勢に共感をもてる症例であった.今後の症例が非常に楽しみである.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

Doctorbook academy

本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。

あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください


Facebook ログインの確認

Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。

Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。 誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。