Doctorbook academy

岩崎由美

歯の保存に努める臨床を目指して ─外科的歯内療法を併用した根尖病巣へのアプローチ─

<この症例はザ・クインテッセンス2011年1月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201101.pdf
#歯の保存 #根尖病巣 #外科的歯内療法

【患者】
42歳女性,専業主婦.やや神経質な性格.

【主訴】
左側前歯部歯肉腫脹(今回が初めて).1週間前から左上1番歯肉頬移行部排膿を自覚し,経時的に歯肉腫脹を認めた.
疼痛はないが,指で触っていたらはじけたような感じで出血し,腫脹がやや軽減した.

【歯科既往歴】
中学生のころ,転倒による打撲の既往あり,その際に補綴を行った.それ以降,同部の治療は受けてはいない.
口腔内には多くのインレー・ブリッジ等の修復を認める.

【診査・診断】
左上1番根尖部の歯肉腫脹はエックス線診査にて根吸収をともなう小指頭大の透過像を認めた.
歯周精密検査にて同部位のポケットは2~3mm であり,根尖病巣は根管治療の不備にともなう根尖性歯周炎によるものと診断した. 

【治療計画】
①感染根管治療を行い左上1版を保存:メタルコアを除去する際の歯根破折等のリスクも説明.また病巣の大きさから外科的に根尖部を掻爬(外科的歯内療法)する必要性も提案した.
②抜歯して上顎①1③ブリッジ(左上2番は先欠のため).
③抜歯してGBR を行いインプラント埋入.

の3案の治療方法を提示した.
それぞれの治療法を視覚的に時間をかけて説明したことで,よく理解できたと納得されていた.

当初右上1番2番の補綴に関してはとくに気ならず,左上1番のみの治療を希望されていたことや,新たな左上3番の削合を避けたいという意向,そしてできるだけ歯を保存したいということから“①案”を選択された.
メタルコア除去後,根管内より多量の排膿を認めた.可及的に根管内の抗原性因子を除去し,エックス線写真にて経過観察し,病巣の縮小を認めた後に緊密な根管充填,根尖部掻爬を行った.

【自己評価】
「根管内の抗原性因子を除去し,根尖まで緊密な充填を行う」という根管治療の基本を忠実に左上1番の保存を試みた点に留意したケースではあるが,外科や補綴の緻密な仕上がりのために,もっと精度を上げるスキルを勉強しなくてはならないと思う.

【今後の課題】
炎症のない歯周組織,精度の高い根管治療・コアや補綴の適合.まずはこれらの確実な仕上がりが目標.
そのうえで咬合や審美,アドバンスなスキルを1歩ずつ学び,患者の時間軸を考えた長期的に経過を追えるGPを目指したい.
そのためにはつねに「患者のために学び続ける」姿勢を忘れずに,研讃を積んで行こうと思う.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 白石豊彦

    この10数年,予知性の低い歯は抜歯してインプラントに置換する考え方が増えてきた.しかし基本姿勢はあくまで生体組織保存である.その姿勢がなければ生体組織の可能性や治療の可能性を知る由もなく,自ら診断や臨床の幅を狭めることとなり,その結果,保存可能な生体組織まで破壊されていくことになる.
    本症例は, 左上1番􏿩の根尖病巣への対応が大きなポイントであった.診査・診断は的確であり,患者の希望も踏まえながら,同時に治療におけるリスクについても説明を行ったうえで保存的治療を選択したことは非常に評価できる.初診時と治療終了時の口腔内写真やデンタルエックス線写真比較でも,とても良好な結果が得られている.まさに生体組織保存に成功した1 症例と言えよう.
    しかしあえて術式について改善点を述べるならば,切開線の設定に問題がある.切開線設定の原則として閉鎖創とする場合,骨欠損部上に切開線は設定しない.しかも今回は骨補填材と吸収膜の併用をともなう閉鎖創であるので,骨の裏打ちのあるところに広めの切開を行い,吸収膜で欠損部を確実に覆うようにすべきであった.
    今回,切開部が裂開しなかったのは幸いであったと考えるべきで,再度,切開の基本原則を確認してほしい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2011年1月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 白石豊彦

    臨床ではあらゆる問題を抱えた患者が来院する.それを解決するためには多くの知識と技術を必要とする.
    河崎一夫先生(前金沢大学付属病院長)の『医学を選んだ君に問う』に,こんなくだりがある.「医師の知識不足は許されない.知らない病名の診断は不可能だ.知らない治療をできるはずがない.君自身や君の最愛の人が重病に陥ったときに勉強不足の医師にその命を任せられるか? 医師には知らざるは許されない」と.つねにこの一節を肝に銘じながら日々の臨床に努めてほしい.そしてまた口腔治療を通して患者というヒトを治すということをいつも念頭に置きながら臨床に携わってほしい.そのためには患者とよく話し,患者の声に耳を傾け,患者の背景にあるものを読み取り,患者をよく知ることがとても重要である.患者は生体を通して多くのことを教えてくれる.それを決して見逃すことなく自らの臨床の糧とし,そして再び患者に還元してほしい.河崎先生は最後にこう締めくくっている.「心の真の平安をもたらすのは,富でも名声でも地位でもなく,人のため世のために役立つ何事かを成し遂げたと思える時なのだ」と.この言葉はこれからの歯科界を担う若い先生方へのメッセージともしたい.

    <この症例はザ・クインテッセンス2011年1月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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