Doctorbook academy

栗原一雄

日常臨床におけるマイクロスコープの活用 ─確実な歯内治療がもたらした患者の変化─

<この症例はザ・クインテッセンス2011年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201102.pdf
#マイクロスコープ #歯内治療 #患者の変化

【患者】
23歳,女性.口数は少なく,話し方もおとなしく落ち着いた雰囲気があるが,神経質な面もある.口腔内への審美的要望は高い.

【主訴】
約5年前に加療した右上6番に1か月前から強い自発痛があり,食事もできないとのこと.
加療直後より違和感と咬合痛があったようだが,前医には「様子をみるように」と指示されていたという.

【歯科既往歴】
口腔内への意識は高く,以前より違和感や審美的な悩みをもっていたが, かかりつけ歯科医ではまったく説明なく治療を受けていたとのことで,歯科治療全般にかなり強い不信感がある.初診時は,治療内容よりも口腔内状態の現状の説明と今後の方針を強く求めていた.

【診査・診断】
問診,口腔内写真およびエックス線写真などによる診査により,原因歯を右上6番と特定.不完全な根管治療による根尖性歯根膜炎と診断した.
一口腔単位において咬合性外傷やパラファンクション,周囲歯周組織に異常は認められなかった.
症状の原因と,今後の治療方針に重点を置き説明を重ねた.根管治療は,肉眼での治療には限界があるためマイクロスコープを使用しての精密治療が必要な旨をカウンセリングし同意を得た.歯科治療に対する不信感から当初は懐疑的であったが,徐々に積極的に会話に参加していただけるようになった.

【治療計画】
メタルコア撤去後,軟化象牙質を除去.
根管口を明示しクラックならびにMB2の有無の確認を行い,隔壁を作成した.その後,EDTA にてスメア層を除去後,4%次亜塩素酸ナトリウム溶液にて根管洗浄を行った.根管充填後,最終形成を行い最終印象に入る.プロビジョナルクラウンのマージン調整および適合を確認後,最終補綴物のオクルーザルコンタクトを確認する.一連の行程をマイクロスコープを用いた拡大視野下にて行うことで,より確実な治療を心がけた.

【自己評価】
本症例はマイクロスコープを用いて根管治療から補綴治療までを行ったが,根管内の形態が非常に複雑になっており,確実な洗浄と緊密な根管充填を行うのは容易ではなかった.しかしながら根尖側ならびに歯冠側の封鎖もほぼ確実にできたと思われ,症状の改善もみられた.
また,術前の頬側のクラウンカントゥアを修正したことにより頬側咬頭の頬舌的幅径がやや大きくなり側方のディスクルージョンは確保できていたが,頬側咬頭内斜面のオクルーザルコンタクトの形態をやや小さく付与してみた.今後の長期的な予後をみていきたい.そして何よりも,不信感の強い患者と信頼関係が構築できたことがうれしい.

【今後の課題】
各治療の基礎知識を高め,さらなる確実性をもって拡大視野下での治療を行えるようにしたい.マイクロスコープを用いた歯科治療の可能性を最大限に生かすためにも,精励恪勤をもって歯科医療技術の向上を目指していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 松本邦夫

    著者はマイクロスコープを臨床でうまく使いこなしており,各ステージの完成度も高く,その努力をまずは評価したい.隔壁の作成,ラバーダムの使用などの基本的事項も遵守されている.
    しかし,う蝕除去時の写真をみると,近心歯質は歯肉縁下に位置しているが,その部分の接着環境はどうであったのか? 根管充填後のコアの作成に際し不安を感じていたのであれば,一度隔壁を除去すべきであろう.
    コア形態の隔壁とプロビジョナルレストレーションによる二重仮封はすばらしいのだが,逆に近心頬側部の開口部の直線下が不足している.マイクロスコープ下での根管治療は,湾曲部確認のために歯質の削除量が過大にならないように注意する必要があるが,今回は少し不足していたと考えられる.根管充填後のエックス線写真から,近心頬側根管はかなり複雑な形態であったことを加味すると余計にそのように感じてしまう.また,術前のエックス線写真からみられる右上7番と近接した環境を改善するに至っていないのが残念である.補綴を行う前の環境整備についても熟考してもらいたかった.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2011年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 松本邦夫

    治療中の状況はすべてを担当する歯科医師が一番知っている.マイクロスコープを応用することにより,その情報量は膨大となり,些細な変化に気づくようになる.それらを改善すべく基本事項を勉強し直す努力により診療レベルは格段に上昇すると信じている.もちろん「木を見て森を見ず」にならないように,マクロ的な視点も重要であることはいうまでもない.口腔内写真を撮影にする際は,もう少し目的を考えながら撮影の画角・角度を考慮すると,さらに客観的な資料になるだろう.歯内治療の評価はエックス線写真の評価による.すなわち,読影しやすい画像が必要になる.根管充填後のエックス線写真のあるべき姿,根管形成・根尖部の拡大・根充材カット面の処理・仮封材の厚みなど,細かな事柄ではあるが,実はすべてエビデンスに基づいた求められる姿なのである.
    本稿からは, 1 本の歯の治療に情熱を注ぎ込む著者の意気込みを感じられた.その姿勢を維持し,多数歯の治療であっても同じように心がけてほしい.また,患者と良好な信頼関係を築き,患者を中心としたチームアプローチの診療スタイルは評価できる.今後のさらなる飛躍を期待する.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2011年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

Doctorbook academy

本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。

あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください


Facebook ログインの確認

Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。

Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。 誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。