初めての歯槽堤増大術で学んだこと ─ソケットプリザベーションを併用して─
<この症例はザ・クインテッセンス2011年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201108.pdf
#歯槽堤増大術 #ソケットプリザベーション
【患者】
54歳,男性.真面目で温和.受診当初は口腔内に関心は薄かったが,衛生指導後は積極的に治療に協力してくれた.基礎疾患なし.非喫煙者.コーヒーを嗜好.
【主訴】
昨日から左上の前から2本目の歯がズキズキ痛い.半年以上前から上の真ん中の前歯2本もグラグラしているので治したい.痛みはない.
【歯科既往歴】
前回歯科治療を受けたのは3年前.症状がなかったので検診は受けていなかった.う蝕治療か所は多い.歯周病治療については受けた経験がないとのこと.
【診査・診断】
デンタルエックス線写真より上顎両側1番の歯槽骨吸収は根尖付近まで及んでおり,歯肉縁下までう蝕が進行していた.ポケット深さはそれぞれ6mmと7mm.唇側の骨は完全に失われていた.動揺度はともに3度のため抜歯と診断.
【治療計画】
左上2番は抜髄根充.抜歯にともない歯槽堤の陥没が想定されるので,抜歯後HA でソケットプリザベーション.歯肉の治癒後に歯槽堤増大を行い,補綴はブリッジで行うこととした.それにともなう支台歯へのリスクは了解を得た.
【自己評価】
初挑戦の軟組織歯槽堤増大術であった.抜歯時のソケットプリザベーションにより手術の回数を減らせたと思う.顎堤の唇舌幅も十分確保でき,補綴も満足できるレベルに仕上がったと思う.
【今後の課題】
より正確に診断し,よりていねいに治療できるように手技も磨いて結果を残したい.そして受診者が口腔全体を長期にわたって管理できる一助になりたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
本症例は,軟組織移植による顎堤増大術を適用した症例であるが,抜歯後すぐに骨移植材を抜歯窩に充填するいわゆるソケットプリザベーションと併用して顎堤の保存,増大を試みている.
抜歯予定歯の術前骨レベルは大きく下がっており,また,唇側骨壁がすでに失われていたという所見からも,抜歯後に水平的・垂直的に大きく顎堤が吸収することが予見できる.それにもかかわらず,抜歯後の写真では水平的・垂直的にも大きな吸収がみられないことから,抜歯後の掻爬,骨移植材の充填,創の閉鎖等の一連のソケットプリザベーションの処置が適切に行われたことが理解できる.その結果として正中部の歯間乳頭も保存されている.
そして,軟組織歯槽堤増大術を行うのは初めてということであるが,結合組織採取そして移植が適切になされ,移植片が確実に生着したということが,顎堤の水平的ボリュームが増している術後の写真からはっきりと認められる.審美的領域に行う手術は確実に成功することが求められるものであるが,それを初めての症例で成功に導いた技術力には感心する.
また,重度のう蝕,歯周病に罹患している病因に目を向け,もっとも重要なプラークコントロールを行いながら患者との意思の疎通を図ったことは,手術の上手下手を超えた医療者としてのもっとも基本かつ最大の責務を果たしているといえる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
顎堤増大術を行うにあたって一番重要なことは,術後の顎堤形態が最終補綴物をいかに審美的かつ機能的に配置することができるのかをイメージすることである.
本症例のソケットプリザベーション後の写真では,自身で指摘されているように左上1番の唇側部に軽度の顎堤の水平的吸収が認められるだけで,その他の顎堤形態は,正中部歯間乳頭も含めおおむね良好に保存されている.しかしながら,インターポジショナルグラフト後の顎堤形態をみると,水平的には大きく増大されているが,正中部歯間乳頭の高さが頬側部においてとくに減じている.これは,正中歯間乳頭部に外科的侵襲を加えたため,もしくは,インターポジショナルグラフトによる頬側歯肉
弁の根尖側移動によるものと考えられる.
仮に,理想とされる顎堤形態が左上1番の唇側顎堤の増大のみで得られるのであれば,歯間乳頭部を避けた切開で行えるパウチ法を同部にのみ適用すれば,審美性を左右する正中歯間乳頭の形態保存が可能であったかもしれない.
現在,軟組織移植による顎堤増大を行うにあたって適用可能な術式は多数存在する.そのさまざまな術式の利点・欠点に精通して,個別の症例にもっとも適した術式を選択し,今後もいろいろな症例にチャレンジしていただきたい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>