Doctorbook academy

津覇雄三

エックス線診断の重要性と根尖病変への対応

<この症例はザ・クインテッセンス2011年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201109.pdf
#根尖病変 #デンタルエックス線 #感染根管処置

【患者】
62歳,男性.2008年11月,初診.まじめな性格で話は熱心に聞いてくれる.仕事のため休みが不定期で,1~2週間に1回程度の通院は可能だができるだけ通いたくないとのこと.歯科治療に対しては消極的で,保険治療を希望していた.

【主訴】
左上が痛くて噛めないということで来院.「何日か前に歯ぐきが腫れ,今も少し腫れて歯ぐきを押すと痛い」とのことだった.

【歯科既往歴】
歯科医院は2年ぶりくらいとのことだった.ブラッシング状態は普通だが全体的に歯石の沈着が認められた.他の部位にう蝕等はなく,全体的に保険の補綴物で修復されていた.これまで歯科医院には痛くならないと通っていなかったとのことで,歯科に対する意識や知識は高くなかった.

【診査・診断】
左上7番に打診痛が認められた.また,根尖部圧痛があり,電気歯髄診は反応がなく生活歯反応は認められなかった.デンタル
エックス線診査から,根尖部に明瞭な透過像が見られたため,慢性根尖性歯周炎と診断した.

【治療計画】
主訴である左上7番のう蝕の状態と根尖部の病巣の説明をし,感染根管処置を行うこととともに,歯の咬耗状態からブラキシズムの存在と左上6番の咬合性外傷からの骨欠損が根分岐部に達しており状態があまりよくないことを説明し,全体的な歯周治療の必要性を説いた.
左上7番の治療に関しては納得してもらえたが,左上6番に関しては積極的治療の同意を得ることができなかった.そこで全顎においてスケーリング・ルートプレーニングを行い,定期的検診をしながら,ポケット検査,エックス線撮影を行い,悪化するようであれば処置していくことの了承を得て,治療を開始した.

【自己評価】
 咬合状態を考えながら補綴物をセットし,現在3か月に1度の来院でエックス線による左上7番の経過観察およびPMTCによる全体的な歯周組織のメインテナンスを行っている.2年半経過しているが,歯槽硬線の連続性も完全ではないがでてきており,安定してきているようにみえる.左上6番の状態はメインテナンス初期からポケットおよびエックス線像に変化はなく,悪化してはいないが引き続き注意が必要である.

【今後の課題】
1歯の適切な診断と治療を行うためには,エックス線診断が重要である.とくに根尖病変のあった歯などはその後も経過観察する必要があり,エックス線写真の規格性がとても重要であると考えている.今後も基本的な治療をおろそかにしないように,包括的なテクニックをさらに磨いていきたいと思う.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 立和名靖彦

     卒業後13年,自院開業後7年ということで現在自分の歯科医院や,歯科医師としてのスタイルを構築中の時であろうと思う.また,環境としても歯科医院の多い北九州市ということで,スタディグループに加入しいろいろな方面の研鑽を積まれている途中であろう.このような筆者の勝手な先入観のなかで,本症例をみるといくつかアドバイスができる.

    ①治療の説明時期:最初にすべての説明を行っているが,筆者なら歯科治療への意識が高くない患者の場合,まず数回根管治療のみを行い,患者の信頼を得られたと思えたら,歯周病の説明を行う.そのほうが治療を受け入れてもらいやすい.

    ②診査・診断:教科書的な診査項目を網羅しているが,複根歯の場合は各根管ごとの歯髄の生死,湾曲などの診査・診断が必要である.またエックス線写真より根尖病変の存在がわかれば,根尖孔の吸収度合いの診査も治療の手技的には必要となる.

    ③根管治療中のTek:筆者なら治療中はTek を入れて治療を行う.根管へのアクセス,湾曲根管への対応,根面へのアクセス(SRP)など利点は多い.

    ④対合歯:術後の口腔内写真をみると,下顎の補綴物が気になる.咬合性外傷が骨欠損の一因であるなら,さらに踏み込んだ歯周治療の一環として再製をすべきではないだろうか.2年半のメインテナンス中に,その説明がなされたかも気になる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2011年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 立和名靖彦

     結果として,治療が完了しメインテナンスも継続中ということは,この患者は,つは歯科医院の治療に何らかの魅力を感じたのだろうと思う.何に惹きつけられたのかを,もう一度,患者自身にきいてみるのも,いいかもしれない.意外にスタッフの対応を気に入ってくれていたりするものである.
     個人的な集まりで臨床ケースなどを検討するなかで,津覇先生の芯の強さを感じることがある.反面,現在のところは自分の歯科臨床には絶対的な自信はなく,患者にもいま一歩踏み込めないのが実情ではないだろうか.これからも,毎日の臨床のなかで少しずつ自分の理想とする歯科治療を実践できるように,患者に説明し,納得してもらい,実行し,信頼され,継続してメインテナンスに通ってもらえるように,自分の実力アップに励んでほしい.幸いそれができる環境(スタディグループ)にはあると思う.また,同業である奥様と力を合わせ,役割を分担し,広い視野に立った歯科医療を作り上げてほしい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2011年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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