Doctorbook academy

小林一久

捻転歯に対する前歯部審美歯冠修復

<この症例はザ・クインテッセンス2013年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201309.pdf
#捻転歯 #診断用ワックスアップ #オールセラミッククラウン #ブラックトライアングル

【患者】
40歳,女性.社交的で親しみやすい性格.

【主訴】
上の前歯の歯並びが悪く,みた目が気になる.

【歯科既往歴】
左上1番が捻転していることは以前から気になっていたが,今まで治療をするきっかけがなく,そのままにしていた.今回,生活環境の変化にともない治療を決意したとのこと.

【診査・診断】
患者は当初,上顎両側1番または左上1番を抜歯し,欠損部の両隣在歯を支台歯としたブリッジによる治療を希望していた.上顎両側1番の幅径を計測した結果,中切歯幅径の平均値より3.5mm 不足していた.歯列の正中は顔面正中から約1mm 左側寄りに偏位し,歯肉辺縁形態は左右非対称であった.
 上顎両側1番に自発痛,誘発痛は認められなかったが,開口時に顎関節付近に軽度疼痛があったため,咬合状態を確認した.左側方運動時に著しい咬頭干渉があり,右側方運動と比べると明らかな運動制限が確認された.
 以上のことから,審美と咬合を考慮した治療を計画した.上顎両側1番は捻転している以外にとくに問題が認められなかったため,矯正と歯冠修復の2通りの治療法を患者に提示することにした.

【治療計画】
治療法として,上顎両側1番を含む全顎的な矯正治療と上顎前歯部の歯冠修復治療について説明したが,患者は治療期間の問題から歯冠修復による治療を選択した.患者が望むブリッジによる治療は審美性の回復に対しては良好な結果が得られそうであるが,歯質や歯の保存,治療後の清掃性を考慮し,上顎両側1番はいずれも抜歯せずに治療することを推奨した.その後,左上1番のみを治療した場合と,上顎両側1番を治療した場合の診断用ワックスアップを製作して患者に提示したところ,患者は上顎両側1番の歯冠修復を希望した.捻転が高度で歯質削除量が多くなること,
右上1番が失活歯であることから,全部被覆冠での治療を選択した.また,診断用ワックスアップの結果,左上1番の支台歯形成時に露髄すると診断したため,患者にその旨を説明,相談し,左上1番は抜髄を行う方針とした.

【自己評価】
治療終了時点で患者満足が得られた.経過は短いが,歯間乳頭の位置や辺縁歯肉の状態は良好で,顎関節等も安定している.今後も現状維持できるように定期的に観察を行っていく.

【今後の課題】
EBM 実践のためのさらなる情報収集を課題としている.補綴については,咬合状態を正しく診断する能力,また不調和がある場合にその原因を見極める能力に磨きをかけたいと考えている.日々の臨床ではつねに患者の口腔内全体を観察し,異常な部分があればそれについて考察することを心掛けている.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 小峰太

     小林先生は卒後9年目であり,自分で行った症例の中・短期的な治療経過を観察する機会が増え,その結果を目のあたりにしているところであろう.今回の症例では,支台歯形成,印象採得,コンポジットレジン修復,プロビジョナルレストレーション製作など,個々のステップを基本に忠実に行っている.術前に診断用ワックスアップを行い,最終補綴物の形態をワックスで再現することで,治療計画の立案やその後の補綴処置をより効果的に行っていることは評価できる.抜歯せずに,高度の捻転歯を審美的に回復し,良好に経過している点で,患者に満足していただいたと思われる.
     気になった点は,最終的にブラックトライアングルが改善されてはいるものの,隣接コンタクトをプロビジョ
    ナルレストレーションの段階で調整して歯間乳頭を回復させ,最終補綴物に移行したほうが,より確実な治療であったと考えている.また,左上1番を抜髄したデメリットについても再考してほしい.アンテリアガイダンスの変化,咬耗状態等からも,今後も咬合状態に注意しながら経過を観察してもらいたい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 小峰太

     私は小林先生に診断用ワックスアップと治療計画立案の重要性を彼が大学院生の時代から説いてきた.それを今も実行されている点はよいことであり,今後も継続していただきたい.
     一方で,今回の症例では,残念なことにプラークコントロールの管理が満足な状態とはいえない.大学勤務を経て,開業医をめざしている現在の小林先生ならば,補綴的,審美的側面だけでなく,すべての治療をバランスよく行っていく必要があり,その点で歯周病学的な処置を再考してほしい.また,初診時における患者のこれまでの治療経過などの患者情報を十分に収集することも重要である.
     今後も,科学的データに基づいた治療計画の立案が可能となるように,日々,文献の検索,抄読を継続していただきたい.患者に治療を施すことは,患者の人生に多大な影響を与えるので,自分の治療内容に責任をもち,今後もよい結果に辿りつけるように治療等に励まれんことを期待している.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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