補綴修復の精度向上を目指して
<この症例はザ・クインテッセンス2011年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201112.pdf
#根管治療 #支台歯形成 #印象採得
【患者】
28歳,女性,2009年8月初診.職業は医師であり通院は不規則.部位毎の治療の履歴を記憶しており,エックス線写真での透過像,不透過像の判別は理解できる患者であった.
【主訴】
「左上の奥歯に違和感があり,ときどき歯茎が腫れるので気になる」とのことで来院.治療を行うにあたり,どのような方法,手段になるのか詳しく知りたいと言われていた.
【歯科既往歴】
左上4番の補綴物を装着した3年前が最後の歯科受診.そのときは左上5番の自覚症状はなかった.しかし,左上4番に関しては何の説明もなくこのような補綴物が入ってしまったと,少し歯科治療不信があるような言動もみられた.
【診査・診断】
口腔内写真より左上5番の咬合面には中心結節の破折らしき所見がみられ,根尖部相当の歯肉にはフィステルが存在する.左上5番に関しては,う蝕は認められない.エックス線診査では左上5番の根尖部に透過像があり,軽度の打診痛がみられた.骨レベルも平坦で歯周疾患も軽度とみられる.電気歯髄診断でも生活反応(-)であり,よって左上5番の慢性根尖性歯周組織炎と診断した.
【治療計画】
無麻酔下にて根管口明示.根管内はすでに失活していた.まず根管治療からはじめ予後不良であれば外科処置も視野に入れてもらうよう説明し,了解のもと治療開始に至った.通院不可能な場所への転勤もわかったため,時間の制約のなかで根管治療を続ける.しかし,予想に反してフィステルの消失を認めないため外科処置を行った.この場合,歯根端切除術の選択もあるが自分の技量と患者の年齢とそのあとのメインテナンスも不可能なことも考慮して,根尖掻爬までにとどめて縫合し,終了した.
【自己評価】
卒後14年にもなるのだが根管治療のレベルが低い.もっと手際よく進めていけたらもっと時間的に早く,また外科処置も必要なかったのではないかと考える.たとえ外科処置が必要だったとしても最小限の侵襲で弧状切開でもよかったように感じる.
【今後の課題】
まずは診査,診断を確実にできるようになること,そして基本的な手技(デンタルエックス線写真や口腔内写真の規格性など)を含めて経験値を向上させていくこと,また人対人であるがゆえにコミュニケーション能力も会得していきたいと考えている.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
上顎左側臼歯部のみのケースであるが,全般的にはていねいに治療を行っていこうとする姿勢が感じられる.
まず主訴の左上5番の根尖病変に対する処置であるが,初診時のデンタルエックス線写真からは根尖が近心に湾曲していることがわかる.仮根管充填時には根尖部まで根管内が清掃されているが,最終根管充填時には根管形成が直線的になってしまい湾曲した根尖部は根管充填材で充填されていないようである.また根尖部掻爬にて対応しているが,この状態であれば根尖切除術を行って感染源の除去をすべきであっただろう.術後のデンタルエックス線写真では根尖部の透過像は縮小してはいるが根尖遠心部に透過像が残っているために今後も経過観察すべきであり,患者にも十分な説明が必要であると思う.隣接歯の左上4番も既存の補綴物を除去し根管治療から再治療を行っているが,根尖部の根管充填材は除去できずに根管上部のみの再根管充填がなされているようで,もう少し根尖部の取り扱いに注意しなければいけない.
補綴治療に関しては支台歯形成や印象採得については問題ないようであるが,最終補綴物の咬合面形態については再考の余地があるように思う.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
現在,卒業後14年が経過してある程度は診療スタイルも確立されてきていると思うが,やっと歯内治療などの基礎的治療のレベルが安定している段階だと感じている.まず1 本の歯の治療を確実に行うことができるようになって多数歯の治療に取り組んでいくべきであり,これからは現在の基礎的治療の精度を向上させながら,より高度な治療にも取り組んでいってほしいと思う.
また,今後審美的な歯科治療を行うためには補綴治療の精度のみではなく歯周組織の取り扱いにも注意が必要となってくるため,歯周外科処置を行う場合は術式の選択に注意すべきである.今回提示した症例は上顎左側臼歯部のみの比較的単純な部分症例であったが,これからは全顎的な症例や複雑な病態が存在する症例に対応する必要がある.そのためにさらなる技術や診断力の向上を目指して,これからも研鑽を続けてほしいと考えている.
<このコメントはザ・クインテッセンス2011年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>