フェルールおよび角化歯肉の獲得をめざし、歯肉弁根尖側移動術を行った症例
<この症例はザ・クインテッセンス2012年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201206.pdf
#フェルール #角化歯肉 #歯冠長延長 #歯肉弁根尖側移動術
【患者】
45歳,男性.会社員.無愛想であまり口数は多くない.
【主訴】
数日前から食事時に右下奥歯が動いているような気がする.痛みはないが噛むと違和感が続いており,近医を受診して除冠のみ受けたそうであるが,説明に納得がいかなかったとのことで当院へ転院.前日に触っていたら土台も取れたとのこと.
【歯科既往歴】
臼歯部の修復,補綴を多数認める.プラークコントロールも悪くはなく,歯科治療に関しての知識はあまり高くないが,理解・納得してもらえれば治療に協力的.
【診査・診断】
打診痛軽度,歯肉溝は全周2mm 程度.根充不良であり,歯根膜腔の拡大を認める.また歯肉縁下う蝕もあり,辺縁骨の歯槽硬線が不明瞭なので(脱離した後のため,元の咬合状態は判断しにくいが),咬合の影響も大きいと思われる.
【治療計画】
歯内療法の必要性,残存歯質の状態を説明.長期安定のためにはフェルールの獲得が必要であり,十分ではないが角化歯肉は確保できそうなので,歯周初期治療後,歯冠長延長を目的として歯肉弁根尖側移動術を行ってからの補綴がよいと判断.また右下6番にもう蝕を認めるため,メタルインレーにて修復を行う.
【自己評価】
臨床症状もなく経過は良好.フェルールの確保はできたが,辺縁歯肉のわずかな炎症のコントロールが難しく,厚みが獲得できていない.また歯内療法においても根充良好の感触であるが,エックス線写真では根尖付近がアンダーに思える.また,歯根捻転による歯根近接,咬合関係により理想的な歯冠形態が回復できていない点が挙げられる.
【今後の課題】
口腔内写真,エックス線写真を継続的に規格性をもって収集することで,正確かつ効率的な治療計画の立案,的確な予後の判断を行うことができると考える.また本症例においてはエックス線写真の正確性,資料の規格性が不十分であり,短期的な歯の変化,長期的な予後の判断もできていないと思われ,改善のためには基礎資料の収集から基本的な手技の向上も必須である.さらに新しい技術の習得に向け,初心を忘れずに修練を積んでいきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
卒後6 年間,大学や臨床コースで学び,いろいろなことにチャレンジしている著者の前向きな診療姿勢は共感できる.基礎資料収集から診査・診断,治療計画,歯内療法,歯周治療,補綴治療などの1 つひとつの処置に対する基礎知識の習得と経験も積んで,自信がついてきたころだと思う.
今回,著者のさらなる飛躍を期待し,先輩としてあえて辛口のコメントをさせていただく.右下5番 に対する補綴前処置として,フェルール効果を期待しての臨床的歯冠長延長術を行うにあたり,角化歯肉の温存を目的とした部分層弁による根尖側移動術を施し,結果としては十分な幅の角化歯肉を獲得している点は評価したい.しかし,切開,縫合,歯肉弁の適合,術後管理など,基本となる手技の精度を高めるようにしてほしい.補綴治療に関しては,歯周外科後のシャローサルカスに対して安易な歯肉縁下マージンの設定は,生物学的幅径を侵襲してしまう原因となるため,注意深く行うべきである.
右下6番の窩洞形成では,フィニッシュラインがやや不明瞭な部分が認められる.カウンセリングから治療終了までの各ステップで手を抜かず一生懸命に取り組んでいる姿勢を大事にして,今後のさらなる飛躍を期待している.
<このコメントはザ・クインテッセンス2012年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
歯科治療への不信感をもって転院して来られた患者に対して,各治療ステップでインフォームドコンセントの徹底によって,患者との信頼関係を築いたことを評価したい.著者の歯科治療に対する情熱と丁重な診療姿勢を,今後も継続していただきたい.
著者が治療方針で述べているように,自分の提供できる医療が患者にとって最良のものとなりうるかをつねに再考され,自己満足ではなく患者満足をめざしてほしい.また,QOL の向上,長期的な口腔内環境の安定には今後のメインテナンスが重要であり,歯周管理の他,歯の動揺度,咬合状態,隣接面コンタクトの状態,根管の状態,二次う蝕,補綴装置の状態,エックス線所見などのわずかな変化を見逃さないことが大切になる.そして,歯単位から歯列,口腔,患者単位まで考慮した診査・診断,治療計画と,それを実行するためのスキルアップを期待している.
<このコメントはザ・クインテッセンス2012年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>