Doctorbook academy

吉浦由貴子

CBCT を利用した 感染根管治療の診断と術後評価

<この症例はザ・クインテッセンス2012年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201202.pdf
#CBCT #感染根管治療 #術後評価 #診査診断

【患者】
35歳,女性.教師.性格はひかえめ,上品なイメージ.

【主訴】
1年前から歯肉にフィステルができている.咬むと痛い.

【歯科既往歴】
問題があるときのみ歯科医院を受診して治療を受けていた.今までそれほど歯で困ったことはない.

【診査・診断】
自発痛はないが,右下6番には軽い咬合痛があり,頬側歯肉にフィステルを認めた. デンタルエックス線写真から読影できることは,遠心根は2根あり,近心根は歯根膜腔のラインが2重にみえるので,2根管ありそうだということ,根分岐部病変ができていること,そして根尖透過像があり,その周囲には硬化性骨炎を認め,歯槽骨梁がみえなくなっていることなどであるが,根分岐部病変とエンド病変との関係や,フィステル部分の皮質骨の吸収の具合,根管形態を確かめ,三次元的に精査するためにCT撮影を行った.

【治療計画】
CBCTから,近心根,遠心根の3根ともに病変がありとくに近心根の病変は大きく,フィステルに相当する皮質骨に広範囲の吸収があることがわかった.また, 近心根の病変は根分岐部病変と連続しており,この右下6番の根分岐部以外に深い歯周ポケットは存在しないことから,エンドが主因のエンド・ペリオ病変であると診断した.そのため,まずはエンド治療が優先され,SRP などでせっかく生きている歯根膜を傷つけないように注意した.
エンド病変が,下川公一先生がいうように,「根管内の起炎因子に対する,歯根膜の防御反応であり,炎症細胞が浸潤した結果,二次的に骨吸収像を呈しているにすぎない」と考えると,この症例でも,起炎因子を除去することにより,歯根膜の炎症がなくなれば,骨が回復してくると考えた.ただ患者は1年前から歯肉が腫れたり引いたりを繰り返しているとのことで,このように長い間フィステルがあった歯というのは唾液が逆流して難治性になりやすいことが多く,患者には治療期間がかかるし,治らない可能性もあることを説明したうえで治療を行った.

【自己評価】
根管治療の診断において,デンタルエックス線検査による診断がいちばん重要であると考えているが, この症例では, デンタルエックス線検査にCBCT による診断をプラスすることにより,デンタルエックス線写真ではわかりにくい頬舌的な状態や水平断での状態を把握することができ,実際の治療計画に反映することができた.また,CBCT の画像を患者にみせることで,根管治療の難しさや重要性を視覚的に理解してもらうことができ,約半年という長期間の通院にもかかわらず積極的になってくれた.

【今後の課題】
正確な診査診断ができるように努力し,治療技術も磨いて,よりよい治療結果を残し,患者に満足していただけるように日々努力していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 小山浩一郎

     吉浦先生は私と同じスタディグループで,ともに勉強させていただいている.現在の「歯科糸瀬正通医院」に勤務されて10年が経過し,基本的な治療手技はもとより治療コンセプトもしっかりおもちの若手のホープである.昨今広く普及が進むCBCT の有用性はもはや議論を待たないものであるが,デンタルエックス線50枚分ともいわれるエックス線を患者に照射するだけに,確実な診断に結びつけたいものである.その点,CBCT をいち早く導入された医院だけあって,診断に供する画像の切り取り方も一日の長が感じられる.
     さて,この患者であるが,近心頬側の歯髄に及ぶ充填を原因とする歯髄壊死~感染根管と推察されるが,一方で頬側歯頸部の充填物が根分岐部病変を惹起した可能性も否定できない.いわゆるSimon class Ⅱ(根尖病変と歯周疾患が独立して共存もしくは交通している)に相当する.今回,先生は「エンド・ペリオ病変のファーストチョイスはエンド」という定石通りの治療の進め方をされ,根管拡大・根管充填も適切と思われ,しっかり結果がでている.欲をいえば,遠心舌側湾曲根管へのアプローチが直線的になってしまったようにみえることが惜しまれる.

    <この症例はザ・クインテッセンス2012年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 小山浩一郎

     根管治療が終了し,骨欠損も改善し,補綴物が装着され,患者の主訴は解決された.しかしながら(誌面の都合上,割愛されたかもしれないが)患者に伝えておくべき事項が若干見受けられる.デンタルエックス線像において,①右下5番の歯槽硬線の消失,②右下7番の近心骨縁下欠損・遠心歯根膜空隙の拡大が認められ,CBCT 画像からは①右下5番 頬側皮質骨の消失(もしくは菲薄化)が明白で,この歯がどういった経緯で失活・ファイバーポストとなったかが懸念される.②右下6番の解剖学的形態はルートトランクが短く,歯根の離開度は大きいこと(将来的な根分岐部病変への対応の準備として),③右下7番は樋状根であるなど,今後注意深く経過観察を続けていかなければならないと思われる.また右下7番については外傷性咬合の影響が懸念されることから,パラファンクションの有無を含めた咬合の診査・診断も行う必要があろう.今後ともさらなる研鑽を重ね,世代をリードする歯科医師として活躍されることを期待する.

    <この症例はザ・クインテッセンス2012年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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