Doctorbook academy

二宮洋介

重度歯周病患者に自家歯牙移植にて 臼歯部咬合を確立した一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2012年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201205.pdf
#重度歯周病 #自家歯牙移植 #エムドゲイン® #臼歯部咬合

【患者】
53歳,女性.性格は明るく,温厚,まじめ.

【主訴】
歯周病の治療(他院からの紹介).歯がしみる.

【歯科既往歴】
他院にてSRP を行っていたが,術後右上1番2番に冷水痛が発現し,左下6番には1週間ほど前から違和感が生じ,腫脹・排膿を繰り返していた.全顎的な歯周治療を希望し,当院を紹介されて来院.

【診査・診断】
初診時,口腔内の清掃状態は悪く,多量のプラーク・歯石の沈着,歯肉の発赤・腫脹,歯の動揺を認めた.
歯周精密検査とエックス線写真検査を行い,全顎的に歯周ポケットが深く出血があり,重度の水平性骨吸収像と垂直性骨吸収像を認めたため,重度慢性歯周炎と診断した.

【治療計画】
上顎両側6番7番および右上5番,右下2番1番は保存不可能と判断,また右上1番2番左上1番3番および左下6番は治療の反応をみて判断することとした.右上4番─7番左上4番─7番は,パーシャルデンチャーの使用
に難色を示したため,自家歯牙移植とインプラント治療を提示し,自家歯牙移植を試みることとなった.
 歯周基本検査(TBI,スケーリング,SRP)を行い,下顎をテンポラリークラウンにて連結固定後,下顎の歯周外科処置(エムドゲイン® 使用)を行った.4か月後,左下8番を右上6番の位置に移植.
アンキローシス予防のため,移植歯の根面にエムドゲイン® を塗布して移植した.3か月後,右上6番から左上3番をテンポラリークラウンに置き換え,上顎前歯部の歯周外科処置(エムドゲイン® 使用)後,右下7番を左上6番の位置に移植(エムドゲイン® 使用)を行った.
5か月後に上顎左側のテンポラリークラウンを製作後,再評価を行い,最終補綴物を装着した.

【自己評価】
患者の希望を叶えるためには右上1番2番左上1番3番,左下6番の保存と自家歯牙移植がカギであったが,治療は成功したと思う.しかし,今後,注意深いメインテナンスが必要であると考えている.

【今後の課題】
包括的歯科治療を行い,歯を保存していくためには,歯周治療の技術はもちろん,歯内・修復・補綴治療のさらなる向上が必要である.また,咬合や顎位については知識と技術が不足していると考えているため,力を入れていきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 木村英隆

     患者は全顎にわたり歯周病が重篤に進行し,疼痛,腫脹および排膿により,つねに苦痛を感じていたと思われる.53歳の女性であれば歯がない自分の口元に失望し,しっかり噛めない歯,あるいは不快な口臭に治療の可能性を求めていたであろう.他医院で治療をしていたにもかかわらず口腔状態に改善はみられず,歯科治療にも不信感を抱いていたかもしれない.
     二宮先生はこのような患者に対して歯周治療を真剣に取り組み,口腔清掃指導からしっかり行い歯周外科手術にも精通している.さらに多数歯の抜歯,そして長期に及ぶに全顎的な補綴治療が行えたことは,二宮先生と患者の信頼関係が十分に構築されている賜物であろう.
     53歳であれば部分床義歯を受け入れるには抵抗があるのも頷ける.現在の女性願望からすると(決して男性には冷たいわけではないが),われわれ歯科医師も初めて義歯を装着する50代の女性には義歯の製作は気が重くなる.二宮先生も同様に悩んだと思われるが,患者の想いに寄り添いみごとに固定式補綴物で咬合と審美を再構築できている.また,初診時と比較して口腔清掃状態も飛躍的に向上し,患者は口元の美しさ,噛める喜びを日々実感していることであろう.まさに二宮先生の情熱と技術が1 つの形となって現れた症例である.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 木村英隆

     今年の春で大学を卒業して15年,開業して7年を迎え,“ 二宮流” という1 つの形ができつつあるときであろう.とくに開業して7年というときは脇目も振らずまっしぐら,自分の信念に誠実に突き進むときである.率直にいうと治療が画一化し,自己流の診療になっていないだろうか.
     歯周精密診査もしっかり行えているが,動揺度に関していささか疑問がある.治療計画を立案する際に,動揺度をⅢ度と診断したならば抜歯である.初診時に左上1番と左下6番はⅢ度と記載されているが,抜歯せずに保存できたのはⅡ度であったのでないか? もしⅢ度が正しいならば最終補綴物の支台歯として大丈夫なのか? 等の疑問が残る.その他に数か所整合性がみられないところがある.
     今回,部分床義歯を避けるため右上6番左上6番にに自家歯牙移植を行っているが,エムドゲイン® の使用は賛同できない.術前の右下7番左下8番のデンタルエックス線写真がないため,断定的な批評はできないが,再評価時のプロービング値から察すると,同歯の歯根には十分な歯根膜が存在したのではないだろうか?そうであればエムドゲイン® を塗布しても移植の効果は変わらないし,歯根膜がなければエムドゲイン® を塗布しても歯根吸収を起こす可能性がある.
     エムドゲイン® は大変有効な材料であるし,“ 歯を残したい” という気持ちはわかるが,すべてに有意な効果があるとは限らない.エムドゲイン® は「魔法の薬」といわれているが,使用方法を間違えて闇雲に使用すると,ややもすれば「魔法の薬」は単なる“ おまじない” になりかねない.
     つねに診療に情熱を傾け,学会や研修会にも積極的に参加している二宮先生の姿勢は素晴らしい.今後もよりいっそう精進し,技術および知識の研鑽に邁進していただきたい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

Doctorbook academy

本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。

あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください


Facebook ログインの確認

Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。

Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。 誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。