Doctorbook academy

髙尾洋平

歯の保存にこだわり, 1 歯に長い期間を費やした症例

<この症例はザ・クインテッセンス2012年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201204.pdf
#基本治療 #骨縁下欠損 #CO2レーザー #犬歯誘導

【患者】
61歳,女性.2010年11月初診.遠方より通院.主婦で時間の都合がつきやすく,治療にも協力的である.穏やかな性格で,こちらの話をよく聞き,意思表示をしっかりしてくれるため,治療が進めやすかった.

【主訴】
上顎右側の奥歯が痛くて噛めないとのこと.

【歯科既往歴】
以前,当該歯の治療のため,他院に1年ほど通っていたが,なかなか噛めるようにならなかった.

【診査・診断】
初診時,右上6番は動揺(+),PUS(+),BOP(+),近心頬側にPD が12mm 存在し,保存困難と思われた.歯周基本治療後,PD が7mm に,CAL が12mm から8mm に改善した.動揺も治まり,フィステルも消失した.歯根破折の有無の確認,および骨縁下欠損への対応が必要であるため,歯周外科を行うこととした.

【治療計画】
当該歯はkey toothでもあり,患者の心境としては保存を強く希望しているため,外科に抵抗を示されなかった.保存不可能な場合は,インプラント治療に移行する旨の了承を得た.
十分な角化歯肉があるうえ,骨欠損が2~3壁性と予想され,骨補填材を用いた再生療法を行うこととした.骨縁下欠損症例では少なからず咬合力のコントロールが必要と考える.よって,最終補綴はディスクルージョンの確立に努め,前方のブリッジと連結することとした.

【自己評価】
治療終了時,右上6番近心側のPD,CAL はともに3mm となった.デンタルエックス線写真にて,いまだ明確な歯槽硬線は確認できず,歯根面に長い上皮や結合組織の付着のおそれ,補綴の形態や咬合付与が不適切である可能性がある.
治療終了後6か月のPD,CAL はともに3mm であるが,今後メインテナンスにより長期にわたり経過をみる必要がある.

【今後の課題】
歯周再生療法はさまざまな手法,マテリアルが登場し,ますます予知性が高まっている.歯の保存にこだわり,より困難な症例に対応できるように研鑽を積みたい.また,患者の人生に長くかかわれるような歯科医師に成長したい.

この症例へのコメント

  • 吉松繁人

    患者は,歯を失っていくと難易度の高い疾患状態であったとしてもほんのひと握りの可能性にかけて治療に臨まれる.この診療内容に患者は非常に喜ばれたことであろう.診療結果がよかったのは補綴物を除去し,自然挺出を用いて歯周ポケットの改善を行ったためと推察される.再生療法成功の確率をあげるためには,隣接部の歯肉弁の厚みと幅の確保と,骨縁下欠損上に切開を行わないようにする必要がある.自然挺出を行うと歯根幅径が狭くなり,ポケット底部も高位になることから治療が行いやすくなる.これらの要因が相まって先生の作戦が効を奏しているのであろう.また,補綴物の咬合面形態も側方運動時の障害を防ぐために工夫しており,ていねいに診療を進めていることがわかる,先生の謙虚で努力を続けている臨床姿勢のあらわれであろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 吉松繁人

    この症例は3つの側面,疾患の程度の診断と評価,ティッシュエンジニアリングを考慮した再生療法,そして補綴設計で整理して考察すべきである.まず治療着手にあたってフィステルの原因が感染根管,歯周疾患,根分岐部病変,歯根破折等の原因を確定しておく必要がある.
     この症例では初期治療の結果がよかったからという理由と確認のためのアクセスフラップを行っているが,骨補填を併用している.もう少し初期治療の間にしておくべき治療と診断があると思われる.当該歯の解剖学的形態と診査結果を考慮すると,根分岐部における何らかの問題が考慮される.デンタルエックス線写真でメタルコアの形成の深さとルートトランクの短さが気になるので,歯周外科を行う前にメタルコアを除去しておく必要もある.
     歯周外科では切開線を設定する際に術野の明示のために口蓋側,遠心側の剥離をもう少し行ったほうがよい.CT などで術前診査をしっかりと行い,骨欠損の形態を知ることが切開線のデザインの決定に不可欠となる.また術後においてもその骨の改善をCT にて確認する必要がある.saggital画像だけでなくhorizontal,coronalでの診断を行うとよい.さらに再生療法の確実性を高めるためにメンブレンの使用や成長因子などを用いてみるのもよいのではないだろうか.
     歯内療法においては,近心根は善処しているが口蓋根,遠心根は心もとない.とくに口蓋根においては術後歯根膜腔の肥厚が認められる.
     補綴設計においてはCAL の値があまりよくない条件であり,患者はインプラントも含めた治療を希望しているにもかかわらず,最後臼歯にインプラント等の補綴で負担軽減を行う配慮がされていない.患者に経済的な負担をかけたくないとの先生の配慮であろうが,金属焼付ポーセレンのブリッジを装着している.せっかく歯周外科まで治療を行ったのであれば,longevity を考えた設計のほうが長期に患者との信頼を築ける場合もあるのでその点の考察が必要であった.しかしながら,実直で熱意ある診療姿勢は患者にとって大切なことであり,今後来院患者数もますます増えていくと思われるので診断学と治療の手順においてCTなどを効果的に用いて確実性をあげてほしい.これからの先生の診療が楽しみである.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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