Doctorbook academy

吉田健

治療期間の制限と患者希望の狭間で ─カントゥア調整のみで審美性を改善した症例─

<この症例はザ・クインテッセンス2010年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201009.pdf

#治療期間の制限 #プロビジョナルレストレーション #カントゥア #歯頸線

【患者】
54歳,女性,非喫煙者.初診日は2009年4月23日.職業は会社員.性格はおとなしく,あまり自分から意見をいわないタイプである.

【主訴】
結婚のため4月に福岡から大阪に転居するので,2か月で治療を終了することが条件.

【歯科既往歴】
上顎前歯の失活は事故によるもので,数歯に修復はあるが口腔内の清掃状態はよいほうである.

【診査・診断】
もっとも悩んだことは期間限定の条件つきで治療を請け負うべきかどうかということ.結果的には患者の強い願望と穏やかな性格,実家が福岡にあり,何かあったら帰ってきやすい状況のため行うこととなる.歯周組織の診査およびエックス線診査より,歯周治療に多くの時間を割く必要は少なく,問題は歯内療法と形成・印象,そして術者・患者双方の満足のいく形態の補綴物を装着できるかである.理想的には,①歯内療法の再治療,②両中切歯の歯頸線を合わせるための右上1番のエクストルージョン,③右上1番の支台築造,④歯周外科,⑤補綴操作である.しかし補綴物の調整によって歯頸線の整合性が獲得できると判断し,患者了承のもと①~④を省略して,まずプロビジョナルレストレーションのカントゥア調整のみで審美性の回復を試みることにした.

【治療計画】
幸い,プロビジョナルレストレーションにて予想以上に患者からの評価が得られたため,2週間の経過観察後,印象を行った.最終補綴製作終了までの計1か月強の経過観察では問題がなかったため,なんとか約束の期間内での装着となった.

【自己評価】
最終的には患者にとって大変満足のいく結果となったが,通常より急いだしわ寄せが将来どのような結果となるか不安が残る.今回のように治療期間に制限のあるケースに対し,術後の予測と,治療すべきかどうかの判断を自分の技量を過信せずに捉えていきたい.

【今後の課題】
これまでは精密な印象を歯科技工士に渡すまでが歯科医師の仕事の最後と思い込んでいたため,本ケースにおいても,審美的なマネジメントが不十分で,補綴物と隣在歯とで表面の質感に調和が欠けているように思える.さらなる技工サイドとの連携に力を入れたい.開業して10年目,メインテナンスの重要性,歯科医療に対する価 値観と喜びを1人でも多くの患者と共有したい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 土屋賢司

    初診時とプロビジョナルレストレーション装着時における上両側1番の歯頸線を比較すると,歯頸線の段差が明らかに解消されているのがわかる.一見,左上1番の歯肉をトリミ ングしたものと思ったが,著者によるとプロビジョナルレストレーションのカントゥアを調整しただけという.治療期間に制限があるなかでの試行錯誤は認めるが,マージンがかなり縁下深くに設定されてはいないだろう か.まずはプロービングにより歯肉溝を計測し,かつボーンサウンディングを行って,生物学的幅径を侵襲した状態になっていないかを確認することが重要であろう.支台歯の周囲組織が健康な状態であってこそ,その上に装着される補綴物の予後も良好になるはずである.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 土屋賢司

    審美修復を行うにあたって大切なことは,“審美”というものが見た目(補綴物)だけの美しさではなく,それを支える周囲組織が健康で,機能性・構造力学・生物学的 恒常性が獲得されて初めて成立するということをまず認識することである.たとえば歯根破折のリスクがある歯に咬合力を加えてまで審美性を目指すのは本末転倒であろう.何事も基本に忠実に,歯の予知性を考えながら炎症と力のコントロールを行うことが肝要.そのような基本に立ち返り,“審美”という見た目だけにとらわれない視野をもつことで,これだけ繊細で高いテクニックをもっている著者ならば,きっと今まで以上によりよい審美修復治療を達成できるものと思う.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2010年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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