生物学的・補綴的・審美的要求から 歯冠長延長術で対応した症例
<この症例はザ・クインテッセンス2012年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201209.pdf
#生物学的要求 #補綴的要求 #審美的要求 #歯冠長延長術
【患者】61歳,女性,非喫煙者.おとなしくまじめな性格.
【主訴】
前医より引き継ぎで右上4番3番2番1番左上1番の補綴治療希望.
【歯科既往歴】
歯科での定期検診は受診しておらず,痛みなどの症状があるたびに局所の治療を行ってきた.前医にて左上4番抜歯後,左上③4⑤のブリッジを装着.前歯部は審美障害を訴え,除冠後,暫間補綴物を装着されていた.
【診査・診断】
顔貌の正中と歯の正中は一致していたが,右上2番1番左上1番歯軸の左側への傾斜を認め,切端ラインは右下がりであった.また,口唇と比較して右上1番左上1番の切端は微笑時の露出量が多かった.以上より,年齢と性別を考慮し,安静時の歯の露出量を仮に1.5mm と設定した.ここから患者と相談しながら,口腔内で調整し,最終的な切端ラインを決定することとした.この切端から6前歯の平均的歯冠長を参考に,仮想のCEJ(将来的な補綴マージン)と,最終のジンジバルレベルを設定した.これらをもとに診断用ワックスアップを行ったところ,右上4番3番2番1番左上1番とも初診時の臨床的歯冠長が短いことがわかった.加えて,歯肉縁下う蝕も存在するため,骨外科処置をともなう歯冠長延長術が必要であると診断した.治癒後の生物学的幅径の確立,清掃性,ジンジバルレベルの安定を得るために,部分層弁による歯肉弁根尖側移動術が適応であると考えた.
【治療計画】
治癒後の生物学的幅径の確立,清掃性,ジンジバルレベルの安定を得るために,部分層弁による歯肉弁根尖側移動術が適応であると考えた.患者は当初,きれいに治したい気持ちはあるが外科処置に対しては難色を示していた.また,前歯の補綴歯のみの治療を希望されており,前医にて装着したブリッジの除去は同意いただけなかった.外科処置に関しては予知性の向上と審美的要求から必要であると十分説明したところ,承諾をいただけた.
【自己評価】
はじめに基準となる切端ラインを決定し,平均的な歯冠長から将来の歯頸ラインを設定した.それを基準として歯周外科処置を行い,術前のシミュレーションどおりの結果を得られた.今回は,診断用ワックスアップのみで患者にカウンセリングして治療を開始したが,処置開始前に実際の口腔内でモックアップを行うことで審美的イメージに加えて,口唇との関係,発音,前歯ガイドをより具体的に評価できた.
【今後の課題】
良好な治療結果を長期的に維持するために,1つひとつの確実な手技はもちろんのこと,EBM に基づいた総合的な診断,治療を実践していきたい.また,患者とのコミュニケーションを大切にしながら,つねに基本に忠実に,さらに治療オプションを増やすべく日々研鑽を積んでいきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
Doctorbook academy
本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。
あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください
Facebook ログインの確認
Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。
Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。
誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。
この症例へのコメント
まず綿密な診査・診断が行われたうえに,治療の流れは定石どおりの方法を着実にこなされ,また治療結果は,患者が満足される審美的結果となっているところを十分に評価したい.さらに,臨床的にも生物学的幅径の確立や清掃性の高い歯周環境の獲得がなされており,永続性のある治療結果が得られていることも評価できる.しかし,あえて今後の参考に技術的側面からいくつか指摘させていただく.まず,外科処置の際,唇側面観からのスキャロップ付与はステントを用いて慎重に形態を整えられているにもかかわらず,切端側からみたスキャロップ付与が不足しており,歯間部の骨が棚状に残っている.同部に根の豊隆に沿った骨整形をすることにより,より清掃性の高い歯周環境が獲得できたと考える.また,術中の歯肉の厚みのコントロール不足,プラークコントロールとプロビジョナルレストレーションの調整不足からか,治癒段階とはいえ術後12週の状態で歯肉辺縁に発赤が認められる.さらに,最終印象時の辺縁歯肉や乳頭部の発赤からもプロビジョナルレストレーションの調整の甘さが伺え,結果,最終補綴装着時にも辺縁歯肉に発赤が残ったままの状態となっているのが残念である.再度,個々の歯周組織の形態にあったティッシュサポートとカントゥアの与え方を熟知し,それをプロビジョナルレストレーションの段階で十分に煮詰め,その形態を最終補綴にそのまま移行するといった緻密な作業を今後の課題とされたら,より審美的で歯周組織に調和した結果が得られたと考える.
<このコメントはザ・クインテッセンス2012年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
今回,本症例を拝見させていただき,手技的なことだけでなく,綿密な診査・診断など,先生の日々の臨床に対する真摯な姿勢は十分に伝わってきた. 7 年目となると,エンド,ペリオ,補綴などの歯科治療全般の基礎が築かれ,今後,包括的治療を含めたアドバンスな症例へのステップアップの時期であると考える.その際に,今以上に自分の技術オプションを広げることも必要であるが,もっとも大切なのは1 つひとつの基礎治療をていねいに確実に行えるということと考える.また,本誌に投稿されたのと同じように,各症例をスライドに記録して自分の行った施術を自分なりに評価し,また他人にも評価してもらい,指摘を受けることによりそれがつぎの症例に活かされる.このサイクルを繰り返すことにより必ずや自分の「成長」を感じられる時期がくることと考える.今後,自分の得意とする分野をみつけ出し,それを強みにさらに臨床の幅を広げることも必要である.患者・治療に対する真摯な態度を忘れずにさらなる研鑽を積まれ,永続性のある治療結果を目標に日々の臨床に取り組まれることを期待する.
<このコメントはザ・クインテッセンス2012年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>