Doctorbook academy

杉本大輔

患者の希望にそって 上顎前歯部を修復した症例

<この症例はザ・クインテッセンス2012年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201210.pdf
#上顎前歯部修復 #う蝕治療 #変色歯 #プロビジョナルレストレーション

【患者】
32歳,女性,紹介により来院.漫画とゲームが旦那よりも好きで若干内向的であるけれど,明朗でコミュニケーションに難はない.

【主訴】
上の前歯の色が気になる.右下の奥歯を作ってほしい.

【歯科既往歴】
患者は,出産するまで歯科技工士をされていて,歯科的な意識は高い.約7~8年間定期的な通院を行っていなかった.


【診査・診断】
主訴部位からみていくと,右上1番は失活歯のCR 修復で変色を認めた.左上1番は補綴下に二次う蝕と,マージン部の露出が顕著であった.右下6番は残根であったが幸い対合歯の挺出はめだたなかった.その他では,右上5番4番左上4番5番,右下5番左下6番6番の修復物下に二次う蝕が存在し,とくに7に関しては歯髄症状も認めた.同時期に修復処置を行い,経年的な劣化とともに辺縁部にう蝕を生じたものと思われる.

【治療計画】
右上1番左上1番に対して本人は補綴処置を示唆してきたが,患者が右上1番の形態を気に入っていることから,漂白とCR 修復で形態を変えずに治療する提案を行った.過去に先輩の歯科技工士にこの歯の形をほめられたエピソードを話してくれ,保存的処置を快諾された.左上1番は補綴処置,右下6番はインプラント補綴処置,他の歯に関してもそれぞれ治療計画をたて承諾を得た.

【自己評価】
漂白歯の後戻りや歯冠破折の可能性は否めないが,当初の目的であった変色歯の改善と歯冠形態の温存を行えた.右上1番左上1番歯肉辺縁のシンメトリーが達成できないまま最終補綴物へ移行したことが悔やまれる.プロビショナルレストレーションによる歯肉形態の調整において,マージン豊隆部の切削の加減が歯肉辺縁のカーブの角度を変化させるが,その感覚はいまだ確実性に乏しい.右下2番交叉咬合は右上1番破折へのリスクファクターとなるが,その改善までは手が回らなかったため,今後経過をみながら介入していきたい.

【今後の課題】
治療介入したものが長く維持されて,初めて成功だといえる.患者への治療介入はなるべく最小限でありたい.長期的な予後を考えると歯周炎のコントロールは当然であるが,咬合や顎運動に起因する力のコントロールも必須である.今後は,両輪で治療のできる歯科医師をめざしたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 田中 秀樹

    プラークコントロールの徹底や根管治療など,基本に忠実な臨床を行っていることには好感がもたれる.十分なフェルールを確保するためにMTM を行い,歯根径と歯冠形態の調和をはかるための治療ステップをていねいに踏んでいるのは評価できる.
     気づいているかもしれないが,一口腔内全体からみると,右下5番4番3番が近心傾斜していることで,右下6番の欠損幅が大きくなっているばかりでなく,右下2番が唇側転移し,右下2番1番との交叉咬合の原因となっている.もし,右下6番のインプラントを利用したMTM で右下5番4番3番が近心傾斜を改善することができたなら,右下6番のインプラント補綴形態も前歯部の咬合関係も同時に改善できたであろう.前歯部の審美修復治療では,歯,歯肉の色調,形態,歯頸ラインの調和の改善をはかることだけでなく,機能的な調和をはかることで,その長期的な安定性も期待できる.患者がその治療オプションを受け入れたかどうかはわからないが,それらを患医双方が把握したうえで最善の治療を行うことが重要である.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 田中 秀樹

    これまで,幅広い知識と技術の習得に全力で臨んできたことは,臨床家としての基礎を築き上げるのに重要な期間であったと思う.つぎに必要なことは,これまでの臨床結果を客観的に評価し,習得した知識を整理することで,つぎの臨床ステージに上がることができるだろう.開業医としては,若いときは臨床に対する熱意だけで勇往邁進することで患者もついてきてくれるだろう.しかし,自身の成長とともに患者層も成熟し,患者の期待も大きくなってくる.地域医療への貢献をめざす一般開業医として,多様な患者の要望に,幅広い視点から最善の治療結果を獲得できるようなバランスのとれた歯科医師をめざしてほしい.また,杉本先生はそれを実現できる気質と情熱をもっていると思う.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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