Doctorbook academy

荻野真介

矯正的挺出を用いた前歯部審美治療

<この症例はザ・クインテッセンス2012年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201211.pdf
#歯肉縁下う蝕 #矯正的挺出 #審美治療 #根管治療

【患者】
52歳,男性.明るく気さくな性格.奥様も当院に来院され,インプラント治療を受けている.

【主訴】
妻から「口臭がする」といわれた.

【歯科既往歴】
最後の歯科受診は約3年前.「前歯の色が悪いと思っていたが,なかなか足が向かなかった」とのことであった.

【診査・診断】
全顎的に歯周病の状態は軽度で,プラークコントロールも比較的良好であった.右上3番に歯肉縁下に及ぶ二次う蝕が認められ,補綴物との間に食物残渣を認めた.このことから,口臭は食物残渣も一因であると診断し,エックス線所見でも右上3番〜左上1番まで根尖病変を認めることから,慢性根尖性歯周炎,左上2番はコンポジットレジンの二次う蝕C2と診断した.顎位にズレはなく,顎位変更の必要はないと診断した.

【治療計画】
右上3番を保存し,歯頸線を他の歯と揃えるには,根管治療後にMTM による挺出を行い,補綴処置を行うための十分なフェルールを獲得する必要がある.他の前歯も同時に根管治療を行い,右上3番にパワーチェーンによる挺出を行った.その際,浸潤麻酔下で根面のキュレッタージを行い,歯根膜線維を切断した.ファイバーポストを直接法でセットし,プロビジョナルレストレーションを装着後,多少の後戻りを認めたため,Ni-Ti 製ワイヤーで再度挺出した.エマージェンスプロファイルの調整を行い,最終補綴物をe.max にて製作し,レジンセメントでセットした.

【自己評価】
MTM 後の保定期間が短かったため,2度の挺出を行うこととなってしまったが,それでもフェルールが不足している.もっと正確な長さの挺出が必要であった.3の補綴の形態も歯頸部が張りすぎており,歯科技工士への情報伝達をもっと改善しなければならない.また,根尖病変の経過も引き続き観察していかなければならないと考えている.

【今後の課題】
1つひとつの処置に繊細さが欠けており,処置の甘さがめだつ.一口腔単位での治療に力を入れ,医院全体としても総合力を上げることで,より高いレベルでの診療が行えるように切磋琢磨していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 荒木秀文

     荻野先生はTEP(田中秀樹氏主宰)というベーシックに重きを置くスタディグループに所属し,日々研鑽を積んでいると聞いている.一見したところ,さすがに基本に忠実な臨床を行っているという印象をもった.以下に,僭越ではあるがコメントさせていただく.
     本ケースにおいて,右上3番〜左上1番にかけての審美補綴処置を行う過程で,う蝕治療・感染根管治療・MTM 等の歯周基本治療を確実に行い,最終補綴へと首尾よくつなげてバランスのよい仕上がりとなっている.最終補綴物に隣接する左上2番のCR 処置も質が高く審美治療に華を添える形となった.また,再度MTM を行ったように不安箇所をみつけるとすぐさま引き返し,やり直す真摯な姿勢にも好感がもてる.さらに右上2番1番の感染根管治療はベテラン歯科医師が治療を行っても難しいと思えるが,適切な拡大で緊密に根管充填され,かつ根尖病変も縮小傾向にあり,良好な経過をたどっているところが素晴らしい.荻野先生の器用さと治療に対する熱意・誠実さが伺える.今後の成長が楽しみである.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 荒木秀文

     最終補綴はバランスのよいできであることは前にも述べたが,誰もがみて感動するまでにはもう少し.形成・プロビジョナルレストレーション・印象等の精密さや正確さをもう一段階ステップアップする必要性を感じる.助言させてもらえるならば,形成において,前歯部での基本的な形成法を踏まえたうえで滑らかな面に仕上げる等の配慮がもう少しほしい.そのため,コア形成時には,う蝕や充填物の除去を注意深く行い,十分な歯質の厚みを確保したうえで支台歯築造をすることが大切で
    ある.また,形成法は補綴物によって異なる.最終補綴物に応じた形成法を意識して取り組むことも重要である.つぎに,プロビジョナルレストレーション.プロビジョナルレストレーションの印象と最終印象を比較するとプロビジョナルレストレーションの印象のほうがよい部位もある.最終補綴に至るまでの歯肉の炎症のコントロールと印象・圧排の各ステップをよりていねいに行う必要がある.また,歯科技工士が製作したプロビジョナルレストレーションに,荻野先生の工夫を加えることでさらに完成度が上がる.右上1番左上1番の歯頸ラインの対称性が得られていないのが惜しいところである.プロビジョナルレストレーションを天然歯の形態に模倣して製作することは重要であるが,最終補綴に生かすことはさらに重要である.
     最終的には基本的処置の積み重ねに尽きる.それぞれのステップの精度を上げれば,さらなるレベルアップが見込めるであろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2012年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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