Doctorbook academy

髙橋宏実

プロビジョナルレストレーションを用いて 前歯部審美回復を行った症例

<この症例はザ・クインテッセンス2013年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201303.pdf
#咬合再構成 #診断用ワックスアップ #プロビジョナルレストレーション

【患者】
68歳,女性.専業主婦.優しい雰囲気の患者.口数は多くはないが,こちらから聞くと思っていることを話してくださる.

【主訴】
前担当医からの引き継ぎ時の主訴は,「左上の根っこの治療が終わったので被せ物をつくってほしい.左上の前歯の痛みが繰り返し続いている」とのこと.また,補綴装置について,以前の自分の歯はそうでなかったが前歯の突出が気になる.できれば固定性補綴装置での最終治療を望むとのこと.

【歯科既往歴】
上顎はすべて補綴装置が装着されている.左上1番に腫脹,フィステルがあるなど,上顎前歯部に関しては4,5年トラブルが続いている.全顎的な歯周治療,左上6番7番に関しては,分割抜歯の既往がある.定期的に歯科検診を受けられていて,歯科への意識は高い.

【診査・診断】
下顎位の診査・診断から行った.Dawson Technique によりCR(Centric Relation)へ誘導し,その位置を記録.フェイスボウトランスファーを行い,CR マウントを行った.

【治療計画】
CR とMI(Maximum Intercuspation)とのズレは大きくなく,上顎補綴装置の咬合調整の範囲内であった.左上1番は抜歯.
右上③②1番左上1番②3番④⑤のブリッジとし,まずはプロビジョナルレストレーションの製作を行っていくことを説明し,理解していただいた.

【自己評価】
下顎位の診査・診断から,ひとつずつのステップを大切に行った.術前の補綴物は歯軸が中心から外に向かって開いているが,プロビジョナルレストレーション,最終補綴物では歯軸は遠心から正しく入って自然にみえる並びとすることができた.しかし,圧排糸により歯肉退縮を起こしてしまった点,歯頸部歯肉のラインの審美性も考慮できればよかったという点が反省点である.

【今後の課題】
今後は,歯肉をうまく扱えるようになることが課題である.それぞれの歯周組織に合った圧排糸の扱いや,歯周外科も含めた補綴治療を行えるように努めたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 小林賢一

     補綴治療のゴールとは,適切な咬合高径,下顎位およびアンテリアガイダンスを構築することであり,かつ結果的に審美を満足させることにある.本症例は,咬合高径の変更をともなわないため,治療が比較的容易であり,その意味ではフルマウスリコンストラクションをはじめて行うのに適当な症例である.髙橋先生にとっては勉強になったケースだろう.
    提示されているテクニックは,フェイスボウトランスファーにより研究用模型を咬合器に装着し,その後診断用ワックスアップ用の模型と上顎模型を除冠したプロビジョナルレストレーション製作業模型を同じ位置に装着することにより,プロビジョナルレストレーションを製作する際にリファレンス用の模型の情報を簡単に得ることが可能な有用なテクニックである.
     最終補綴物装着時に,右上3番が咬合平面よりもやや低位となっている.患者からのクレームもなく,審美的には許容される誤差の範囲かもしれないが,写真を撮影してすぐに確認すれば気がつくことであり,その点は残念である.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 小林賢一

     髙橋先生は, 1 年次の研修医を修了後,筆者の所属する医局,診療グループに参加して約3 年が経過している.しかし,筆者が教えることができるのは補綴が中心となってしまうため,入局と同時にペリオやインプラントを中心とした週1 回の勉強会「Interdisciplinary StudyClub Tokyo」(東京都開業・西堀雅一先生主宰)を紹介した.ところが,本勉強会だけでは飽き足らなくなったのか,西堀歯科で治療の見学も行うという頑張り屋さんである.
     治療方針を自分で考え,それを実行するためには知識が必要であり,知識を実行するには技術が必須となる.優先順位としては,技術より知識であるが,その知識も最新のものはオリジナルの論文を読むことができなければ入手が難しくなっており,そのような意味でもよい指導者のいる勉強会に参加することが重要であると思われる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年3月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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