Doctorbook academy

河原敬

患者心理に配慮して歯周組織再生療法と インプラント治療を行った一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2013年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201306.pdf
#歯周組織再生療法 #GBR #天然歯

【患者】
49歳,女性.温厚な性格ではあるが,心配性である.

【主訴】
歯周病で歯がグラグラしたり,腫れたりするので治してほしい.

【歯科既往歴】
25歳ころに矯正治療の経験があり,その際右上3番左上4番,右下4番左下4番を抜歯済.3年前に歯周病に罹患しているといわれ,月1回通院されていたが,左上7番および右下7番の動揺が増大してきたため,今のままでは歯が抜けるのを待っているように思い不安になり,インターネット検索して当院に転院された.

【診査・診断】
臼歯部を中
心に中・重度の歯周病に罹患しており,左上7番,右下7番に著しい動揺,また,右下7番6番に自然排膿を認めた.アンテリアカップリングの不足や右上3番の欠損もあり,機能運動時に臼歯部の咬合干渉を認めたことから,とくに大臼歯部において歯周病が重症化する原因となっていることが判断できた.患者心理に十分配慮し,できるだけ天然歯を保存した治療計画を立案した.本稿では,上顎左側臼歯部および下顎右側臼歯部について言及する.
 上顎左側臼歯部は,左上6番の遠心側および左上7番は垂直性歯槽骨吸収を認め,また下顎右側臼歯部は右下7番6番に垂直性の歯槽骨吸収を認める.左上7番および右下7番が欠損となれば,咬合支持数が減少することにより残存歯の咬合負担が増大し,さらなる欠損の拡大が生ずる可能性が考えられたため,左上7番,右下7番については抜歯後にインプラント治療,左上6番および右下6番に対しては歯周組織再生療法が必要と考えた.

【治療計画】
過去の歯科既往から,患者心理に配慮するとともにトラブルを起こさないように慎重に説明した.抜歯は受け入れられない様子であったため,初期治療を行いながら患者心理の変化を慎重に見守った.4か月後には患者よりインプラントについての相談もあり,前向きな気持ちになってきている様子が伺えたため,治療計画およびリスクを十分に説明したところ,全顎的治療は希望されないものの,ソケットプリザベーション後のインプラント治療および歯周組織再生療法については同意を得た.なお,左上7番部に関してはインプラント埋入が不可能となる可能性についても十分説明した.

【自己評価】 
患者の歯科的既往や希望により治療計画に制限はあったが,インプラントによる臼歯部の咬合回復および隣在歯の歯周組織の回復はある程度達成できたと考えている.外科処置後の術後管理が不十分であったため,右下6番に根面う蝕を進行させてしまったことは反省すべきであると考えている.

【今後の課題】
本稿では,上顎左側および下顎右側に焦点を当てたわけであるが,実際には全顎的に難症例であったことはいうまでもない.患者の希望に沿い治療介入を最小限にすることでどのような予後をたどるのか,長期的な安定のためには全顎的に介入すべきであって局所への処置が適切であったのか,筆者の知識・技術はまだまだ未熟であり,判断に迷った.今後は,歯周治療や歯内治療だけでなく,咬合や顎運動などについて研鑽し,高い予知性をもった処置を局所的にも全顎的にも行えるような臨床家をめざしていきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 山羽徹

     右上6番7番部には再生療法と, オステオトーム法およびGBRをともなうインプラント埋入という4つの処置を同時に行っているが,本ケースにおける再生療法やオステオトームは難易度が高く,同時に行った場合の成否は術者の技量に大きく左右されると思われる.結果に大きな問題はないが,予定通りの手術であったとはいえない.一方で右下7番6番部では根分岐部の再生療法とインプラント埋入,GBR を同時に行い,非常によい結果が得られている.すなわち,複合的な処置を同時に行うためには,個々の術式ごとに難易度を診断するとともに,自身の習熟度を考慮に入れた手術計画の立案が必要であることが示唆された症例と思われる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 山羽徹

    重度歯周病患者に抜歯を宣告して許容してもらうためには,補綴計画の見通しと患者の信頼獲得が重要であることはいうまでもない.また,妥協的に保存する歯については予後についての共通認識をもつことが必要となる.本文に述べられているように,本ケースは抜歯を拒む患者から欠損補綴についての相談があり,抜歯やインプラント手術に同意が得られたことから,初期治療中に患者心理に対する十分な配慮があったと伺える.患者に対して愛護的な河原先生らしい治療の進め方であると思う.あとは,患者が決心して積極的な治療を行うことになった部分について,患者の心情に必要以上に配慮することなく,適切な診断と治療計画をもって,確実な結果をだすことが求められる.今後のステップアップを期待したい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2013年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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