上顎左側臼歯部における意図的再植と 自家歯牙移植
<この症例はザ・クインテッセンス2014年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201404.pdf
#根尖性歯周炎 #意図的再植 #自家歯牙移植
【患者】
29歳,女性,非喫煙者.性格はかなりおとなしいが,意思表示は明確.長期にわたる疼痛とそれにともなう繰り返しの治療により,歯科への不信感があり,不快症状にも敏感.
【主訴】
抜髄をしてから,一時的な症状の軽減はあっても繰り返し不快症状が出現し,根管治療が続いているため,主治医の説明やインターネット等により歯科の知識・意識ともに高い.
【歯科既往歴】
左上6番7番の難治性の根管治療の依頼で近医から紹介.左上に軽度自発痛および咬合痛があり,温かいものがしみる.約2 年前,冷温痛のため,抜髄・補綴しても再発.根管治療を繰り返す
【診査・診断】
左上6番7番に軽
度打診痛のみあり.スプリントはひと月前から使
用.数回の根管治療後,左上6番は3根管,左上7番は根尖が単一.左上6番口蓋根と左上7番は根尖付近で#100以上で触れると疼痛があり,ジップとリッジが混在して本来の根管形態を喪失.スプリントの深い痕からクレンチングタイプと判断.診断は,ブラキシズム由来の知覚過敏症と根尖部の機械的破壊(パーフォレーション)による根尖性歯周炎.根管治療により保存を試みたが,元来の根管形態を喪失しているため,本当の根尖孔かどうかが不明の根尖を根管内から根管充填しても不確実で予知性がなく,外科的歯内療法により本来の根尖孔とパーフォレーション部を封鎖することを検討した.
【治療計画】
解剖学的な制約を考慮し,左上7番は意図的再植術,左上6番は抜歯後,左下8番からの自家歯牙移植術を行うこととした.
患者にはこの治療計画と強い咬合が疼痛の原因となったことを伝え,治療とスプリント使用の承諾を得た.患者の反応は冷静で症状改善のためなら処置を希望された.
【自己評価】
ゴール設定が困難な歯内治療に見切りをつけ外科的歯内療法に踏み切ったが,良好な結果がでて安心している.左上6番は形態が大きいうえに単冠修復で,プロビジョナルレストレーションにより経過はみたものの,歯根表面積も小さいため,経過を注意深く観察する必要があると考えている.
【今後の課題】
つねに自分の治療を振り返り,手技の進歩に繋げ,つぎの機会では必ずよりよい結果をだすことを目標とし,また新しい手技獲得に向上心をもって取り組みたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
難治性の根尖性歯周炎であろう,正確な診断と的確な治療が困難な症例と思われる.しかし,このケースのように通常の対応では症状が改善しないことは決して珍しいことではない.こういった場合はとくに既往歴・現病歴を事前に把握し,きちんとした資料を収集することで診断,そして治療方針が導きだされる.
誌面からは力のコントロールについてのコメントは難しいが,今回難症例と考えられた根管治療のケースを,まず保存的に対処したことは評価に値する.そしてある程度根管治療を行ったものの,症状改善には至らなかったため,次の手を打ったことで,患者からの信頼も得られたと思われる.このように複数の治療のオプションをもつことは,臨床家としては大切なことである.治療後の経過も良好であるため,患者は満足して筆者も自信を得ることができたのではなかろうか.
<このコメントはザ・クインテッセンス2014年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
長期経過ではないものの,今のところ治療結果は良好と思われる.しかし,筆者はクラウンの適合が良好と述べているが,フィット・形態がやや甘い印象を受ける.対咬関係がわかる資料も欲しかったところである.
また左上6番の抜歯は果たして妥当であっただろうか.できれば外科処置に入る前にCT 撮影を行い,確定的診断を下す必要があったであろう.歯根形態や上顎骨の状態によっては,抜歯前に左上6番にトルクをかけることで歯根膜を傷つけることなく抜歯ができたかもしれない.そうするとこの歯も意図的再植という道が開けた可能性がある.移植をするにしても,CT での診断は必須である.
しかしながら,手技は素晴らしいので,今後は診査・診断をより正確に行い,治療の選択肢を広げると臨床の幅がでてくるのではと考える.そうすると今後は院長としてさらなる飛躍が期待できるであろう.卒後11年を過ぎ,これまでの恵まれた環境を活かして今後もますます精進してもらいたいものである.
<このコメントはザ・クインテッセンス2014年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>