若年者の外傷歯に対して 歯髄保存を試みた1 症例
<この症例はザ・クインテッセンス2014年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201405.pdf
#小児 #外傷 #破折 #歯髄保存
【患者】
初診時13歳,女性.
【主訴】
学校の部活中にアスファルトに転倒して前歯が欠けた. 左上1番破折.受傷後30分で来院.
【歯科既往歴】
小児期より定期健診で来院があり,カリエスリスクも低く,口腔内への関心も比較的高い.
【診査・診断】
問診,露髄の有無,歯髄の生死の確認,デンタルエックス線での歯根の完成度,破折の状態,歯槽骨の骨折の有無,歯の変位,脱臼の有無の診査結果,EPT(+),歯根は完成,歯槽骨の骨折なし,歯の変位はないが,わずかに動揺があり,露髄をともなう歯冠破折・亜脱臼と診断した.
【治療計画】
若年者であるため,歯髄温存の重要性を患者および母親に説明して同意を得た.露髄部を洗浄後に直接覆罩して破折片を用いて歯冠修復することとした.
【自己評価】
術後に冷水痛を認めたのは接着面でのマイクロリーケージと思われる.ピンクスポット程度の小さな露髄であれば直接覆髄で処置をするが,今回のケースのように大きな露髄を認める歯冠破折では断髄処置を選択すべきであった.断髄後は症状もなく,デンタルエックス線,CBCT 像上でも問題なく経過しているため,歯髄の温存に努めることができた.動揺による咀嚼障害があったので固定したが,長期の固定は歯の萌出や歯列の発育にとっては不利となる恐れがあり,1か月の固定期間はオーバートリートメントであったことは反省点である.正しく診断することが最適な治療につながることを学んだ.
【今後の課題】
今回のケースのように,とくに若年者はなるべく抜髄しない,必要以上に補綴しない保存的な処置を念頭に置いた治療を実践していきたい.また1歯にとらわれず,一口腔単位で包括的な診療を心掛けていきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
Doctorbook academy
本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。
あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください
Facebook ログインの確認
Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。
Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。
誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。
この症例へのコメント
外傷歯は頻度が少ないがゆえに正しい知識を身につけることを疎かにしがちであるが,その重要度は非常に高い.なぜなら,歯の外傷は若年者の前歯部に多く生じるため,歯科医師の治療方針がその後の患者の一生の審美と機能を左右するからである.豊田先生は,その重要性を十分に理解しており,天然歯質と歯髄の保存を試みていることはもっとも評価されるべき点である.
この症例のポイントを述べたい.豊田先生はEPT(+)であることを述べているにもかかわらず亜脱臼と診断しているが,月星は「歯の変位はないが根尖部で脈管に断裂がある場合を亜脱臼」と定義しており矛盾する.したがって「振盪」と診断するほうがよいと感じた.仮にEPT(-)であれば「亜脱臼」と診断する.もし歯冠破折と亜脱臼が併発した場合は歯髄を保存できる確率が下がり,患者への説明が変わる.治療方針として豊田先生は直接覆髄を行っているが,考察にあるとおり,薬剤のスペース確保のために2 mm の浅い断髄を行うほうが治療を行いやすい.歯冠修復方法として破折片の再接着を行ったことは,もっとも審美的で患者に利益をもたらす治療選択であったといえる.ステントを用いていることも非常に有効である.また,患者が破折片をもってきたことは,医院と患者の連絡がうまくいっている証拠である.固定については,考察にあるとおり,長期間の固定は避けるべきである.さらに,動揺度にもよるが振盪であれば通常固定は不要である. 2 か月後の術後疼痛の原因はマイクロリーケージであろう.そこで経過をみることなく,介入を行えたことはよかったが,初期の冷水痛の時点で介入できていれば断髄ではなく,CR のやり変えで対応可能であったかもしれない.現在,治療後1 年4 か月であるが,歯髄壊死は1 年以上経ってから生じることがあるため,今後も慎重に経過をみてほしい.
<この症例はザ・クインテッセンス2014年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
いろいろと診断と治療方針について述べたが,すべての出発点は患者のために役立とうとする気持ちだと思う.これがなければ,知識と技術を得ようともしないし,もし知識と技術があったとしても誤った使い方をするかもしれない.しかし,豊田先生の症例からは,外傷歯の知識をもち,適切に治療しようとする姿勢が伝わってくる.正しい知識,適切な技術,そして今回の症例のような最小限の侵襲で最大の効果が得られる患者のための治療(MI)を続けていってほしい.
<この症例はザ・クインテッセンス2014年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>