Doctorbook academy

松本圭史

前歯部1 歯欠損に対する インプラント治療

<この症例はザ・クインテッセンス2014年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201406.pdf
#インプラント #GBR #GuidedBoneRegeneration #CTG #ConnectiveTissueGraft #審美修復

【患者】
48歳,女性.明るく親しみやすい性格.人前にでて話す仕事しているといっていた.

【主訴】
前歯がぐらぐらして食事がしにくい.前歯の左右の歯の大きさに相違があるのも気にされていて,なるべく自分の歯は削りたくないとの希望があった.

【歯科既往歴】
以前から前歯の動揺は気になっていたが,隣在歯と接着させて固定をしてもらっていた.しかし,今回,固定が外れて前歯が動揺し,時間的にも少し余裕ができたので,しっかりとした治療を希望し,本院を受診された.

【診査・診断】
患者の歯列は全体的に歯列不正を認め,前歯部の被蓋は深い状態であった.右上1番は前方運動時に右下1番左下1番が滑走しており,咬合性外傷由来の原因があると同時に重度の歯周疾患に罹患しており,動揺を認め,保存不可能な状態であると判断した.
 治療は,審美と咬合を考慮した計画を立案した.右上2番左上1番に動揺が認められなかったため,矯正治療,歯冠修復,インプラント,それぞれの治療法を患者に提示することにした.

【治療計画】
診査結果より,保存不可能な右上1番の抜歯を行うことで患者の同意を得た.その後の治療法として,まず前処置として全顎的な矯正治療を推奨したが,患者の仕事の都合上,受け入れていただけなかった.接着性ブリッジは右上1番と左上1番の歯冠幅に相違があるため,審美上の問題により受け入れられず,ブリッジでの治療は審美性の回復に対しては良好な結果が得られそうであるが,右上2番と左上1番の歯軸が平行でないために削除量が多くなり,場合によっては抜髄処置が必要になる可能性があることを説明すると,この条件も受け入れていただけなかった.患者は歯質を削除する治療は極力避けたいとのことであったので,矯正治療を行わずに右上1番部にインプラントを埋入する計画を立て,患者にその旨を説明して同意を得た.

【自己評価】
プロビジョナルレストレーションにて歯頸部の位置,形態などを患者に確認していただき,最終補綴に移行したことによって,患者の満足が得られた治療結果を獲得することができた.補綴物の歯頸部ライン,辺縁歯肉は良好な状態を保っている.しかし,正中のブラックトライアングルを埋めるために右上1番の補綴形態が左上1番と比較してやや大きくなってしまった.もう一度,最終ゴールをしっかり煮詰めた治療計画を行えばよかったと反省している.

【今後の課題】
本稿は前歯部1歯欠損に対する症例であったが,インプラント治療にのみ目がいってしまい,隣在歯への治療計画が適切にされてなかったと痛感した.今後は,術前にもう一度インプラント治療を含めた診断用ワックスアップ等を患者に提示し,最終的なゴールをしっかり見据えた治療を行い,高い予知性をもった治療を行っていきたいと考えている.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 殿塚量平

     松本先生がとてもていねいな治療をされている様子がうかがえる.
     手術前の写真(図2a)をみると,装着されていたテンポラリーの基底面形態がオベイトポンティックであったと考えられるが,今回のようなとくにsimultaneous GBRの場合は,少しでも切開縫合を行う部分の歯肉の状態を考え,圧迫痕の残るような形態ではないほうがよかったのでは?と感じた.しかしながら,GBR で得られた硬組織の量などは申し分ないように思われる.ただ欲をいえばもう少し三次元的に造成する際,メッシュのベンディング方法の工夫のみで解決できる問題ではあるが,唇側歯頸部付近の骨のボリュームがあるとよかったと思う.
     最終補綴の近心の形態は松本先生の考察にもあったようにどちらかというと窮屈に感じるが,右側切歯の形態変更など,非常にバランスがよいと思う

    <この症例はザ・クインテッセンス2014年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 殿塚量平

     術前,手術中など,すべてのステップを通して,切端方向と正面方向の統一された方向からの写真が記録に残っていると,何か予測されない問題が起きたときにも症例を振り返ったときの考察がしやすくなり,習熟曲線がより急勾配になっていくものであると思う.
     今回の症例では,埋入されたインプラント体の周囲に実際どの程度の硬組織のボリュームアップがなされたのか,また,埋入深度は適正であったのかなどの情報は見当たらない.さらに,最終補綴印象前の形態と,最終補綴物の形態がだいぶ違うようにみえる.とくに切縁の位置はここまで変更をするのであれば,プロビジョナルレストレーションで再度患者さんと確認されるべきではないだろうか.
     しかし,全体を通して非常に緻密でよく考えられた仕事をしており,松本先生の今後の活躍が楽しみである.

    <この症例はザ・クインテッセンス2014年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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