Doctorbook academy

吉木雄一朗

生物学的侵襲を減らし補綴修復を行うため に歯科用CT を応用した症例

<この症例はザ・クインテッセンス2014年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201411.pdf
#歯科用CT #ワックスアップ #プレパレーションガイド

【患者】
32歳,女性.明るい性格で気になることははっきり言うタイプ.美意識が高い.

【主訴】
出っ歯が気になる.真ん中の歯の隙間と長さも揃えて短くしたい.

【歯科既往歴】
もともと正中離開で中学生の頃に全顎矯正治療を受けたが,少しずつ後戻りし,再び離開が生じた.智歯の抜歯以外は歯科治療
経験がない.

【診査・診断】
臼歯咬合関係は安定しており,顎関節機能も異常なく,患者固有の咬合関係を変えない範囲での補綴処置が必要である.ダイレクトボンディング,ラミネートベニアでの修復では,患者の希望(歯冠長と唇側傾斜)を叶えられず,患者の年齢からも歯髄保存が可能かどうかが診断のポイントとなった.

【治療計画】
CT 診査にて歯髄形態を確認し,模型上で歯髄保存を想定した形成後,担当技工士と打ち合わせを行い,色調・形態が患者の希望に沿うよう診断用ワックスアップを製作した.ワックスアップを利用し患者と検討した結果,それに満足されたので治療を進めることを決定した.

【自己評価】
歯科用CT を応用し,生物学的侵襲を減らした安全な治療を行ったことは,術者・患者にとってリスクを回避できた.また正確な診断用ワックスアップを利用した歯科医師・歯科技工士・患者とのディスカッションは信頼関係の構築や安全な結果を生むのに有効であった.

【今後の課題】
本症例は矯正後の後戻りから生じた正中離開であり,舌癖のコントロールや,ナイトガードの装着を指示しているが,今後も注意深い観察が必要である.今回は歯髄の位置に焦点を絞ったが,今後はCT をエナメル質の厚みの測定に利用し,接着に対しても診断の1つとして活用していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 上野博司

     本ケースでは,矯正治療は不可であること,歯牙形態と突出感に不満があることより,主訴に対して修復治療のみで対応していく必要がある.トライアンギュラーな歯牙形態および正中離開の改善を行う場合,さまざまなマテリアル,治療方法が存在する.それらのなかから患者固有の条件を加味したうえで,最適な治療方法を選択するということが,われわれ臨床医には求められよう.これらに加え,ラボとの連携も肝要であり,たとえ対象が少数歯であっても歯科臨床はとても難しいものとなる.
     患者への精細なインタビューと緻密な資料採得.これらを踏まえた診査・診断という歯科治療に欠かせないステップを吉木先生は確実に行っており,非常に高い資質を予感させる.さらに,歯科用コーンビームCT を用いて,支台歯形成を予定する歯と歯髄の位置関係を三次元的に評価する手法をこれらに加えており,より低侵襲な治療を目指す真摯な姿勢を感じる.そしてこれらを最大限に活用し,前述したようなハードルをことごとくクリアしたことが,今回提示されたような素晴らしい臨床結果をもたらしたと考えられる.同窓でクラブの先輩後輩という関係を抜きにして,賛辞をおくりたい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2014年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 上野博司

     唇側で1 mm のセットバックおよび歯冠長を減じる必要があったこと,薄いエナメル質であることから,コンポジットレジンやラミネートベニアではなく,クラウンを選択したことに(もう少し根拠を明示してほしい点はあるが)異論はない.しかし,あともう少し,と思われるところもある.せっかく360°形成するのだから,補綴物による歯肉形態の改善に考慮されたい.具体的には,術前より左右の辺縁歯肉の形態に差異が存在するが,それぞれの形成深度を工夫し,サブジンジバルカントゥアに強弱をつけることにより,歯肉形態をより視覚的に対称化し,さらなる審美的結果を得ることができたのではないだろうか.水平および垂直的な歯のポジションや,辺縁歯肉の形態に影響を及ぼす歯槽骨の形態,歯肉縁下の歯牙形態をCT により読影し,補綴治療に応用することもまた一法であろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2014年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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