Doctorbook academy

牛窪建介

上顎小臼歯根分岐部に再生療法を 用いた1 症例

<この症例はザ・クインテッセンス2015年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201502.pdf
#エンド・ペリオ病変 #歯内療法 #再生療法

【患者】
48歳,男性.穏やかで協力的であるが,歯科用語をよく調べている.

【主訴】
近隣の歯科医院で歯周治療をしたものの,歯茎のできものが治らない.歯内療法専門医に相談したが,現段階で歯内治療は必要なしと判断し,当院を紹介されて来院.

【歯科既往歴】
左上4番の経緯について患者自身が作成,持参したもの

【診査・診断】
問診,視診,エックス線診査,歯髄検査を行った.過去の治療経緯,紹介元の検査を踏まえて診断を行った.

【治療計画】
紹介元および当院での電気歯髄診ではいずれも生活反応を示した.冷温痛のテストでも痛みはなく,歯周検査の結果,近心頬側に垂直性の骨欠損が確認された.エックス線写真より2根が確認でき,ネイバースのプローブによりⅡ度の根分岐部病変と判断できた.患歯が生活歯であり,マイクロスコープ下での視診でもクラックは認められず,症状が1年近く続いていることから,Simon の分類1による辺縁性歯周炎由来のエンド・ペリオ病変プライマリーペリオリージョンと仮診断を行った.通法どおり原因除去のため,浸潤麻酔下でSRP を計画し,改善がみられない場合は歯周外科を行う,または予後不良とみなし,抜歯の選択がある旨を伝えた.患者は歯の保存を強く望まれたが,治療の限界もあることを理解していただき,できる限り保存的に治療を行うことを治療の主軸とした.

【自己評価】
予知性の低い上顎臼歯の根分岐部の再生療法に結果がでて患者に喜んでもらえたことにまず安心している.術前診査より,根分岐部以外の骨頂は高い位置にあり,キーホール状態であること,根分岐部の開口部が近心方向に傾いており,アクセスがよかったことが要因と思われる.ただ,自身での器具操作で根尖を破壊した可能性があり,根尖付近まで骨欠損があるような場合の再生療法では便宜的に抜髄を行うべきであったのかと疑問が残る.

【今後の課題】
インプラントに予知性はあるものの,自身の歯の保存を訴える患者は多い.その希望にできるだけ寄り添えるように,診断と予知性をもった治療を行えるように日々研鑽を重ねたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 藤本浩平

     本症例は左上4番の治療であるが,歯の形状に異常があり,歯の近遠心径が大きく,欠損してしまった場合にマネジメントが難しい箇所で,治療上,歯の保存に努めることは有意義である.歯自体も形態的に特異なところもあるが,健全歯質の多い生活歯であったことも条件がよかったのではないか.臨床的な症状は歯根頬側面根尖付近からの排膿,後に歯が失活状態に陥ったことからエンド・ペリオ病変のなかでもプライマリーペリオリージョンという診断は的確である.同歯の近心隣接面の骨欠損の病因は根面溝の存在,不適切な咬合力の影響,そして付着歯肉の喪失が背景にある.根面溝は付着の喪失にともなって骨縁上に露出すると,感染が定着しやすい環境を形成され,歯周治療・管理を困難にする.また,口腔内写真から,遠心頬側・舌側咬頭内斜面は対合歯(左下5番)と慢性的な咬合干渉,ブラキシズム・クレンチング等の外傷的な要素も考えられる.これらの影響が初期治療後の残留ポケットと間接的に関与している可能性もある.当初の診査では動揺はないが,これは歯の根形態(頬側根・口蓋根)による影響かもしれない.初期治療中に咬合調整を行ったかどうか興味深い.
     Ⅱ度の根分岐部病変に対するGTR の術後経過が良好なことは,動揺がなかったこと,アクセスがよく明視野下にて適切な掻爬を実行できたことが影響している.現在はメインテナンス中であろうが,将来的には頬側中央部付近の付着歯肉の欠如,歯の周囲の付着歯肉によるシールが得られなければ遊離歯肉移植を検討できる.

    <この症例はザ・クインテッセンス2015年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 藤本浩平

     臨床ではさまざまな問題を抱えた歯の治療を行う/行わない(抜歯)あるいはインプラント治療に方針を判断するために口腔内全体の状況のなかでの患歯を歯周治療,歯内療法,補綴治療の3 つの観点から評価を行い,それぞれの側面からの状況を複合的にとらえることが求められる.今回の症例では治療開始時には大きな修復歴のない(健全な歯質が十分存在)生活歯が治療の対象であった.この観点からは補綴,歯内療法的には介入が必要であれば治療上の制約がない自由な状態にあった.この歯の治療上で焦点となるには重度の付着の喪失に対する対応となる.治療の段取りとしてはもっとも重要なペリオ的な治療から開始し,治癒の状況を観察しながら非外科的な治療から外科的な治療が段階的に行われたことは高く評価されるべきと考える.
     本症例では全体的な口腔内の状況は誌面の都合で明確な情報の提示は困難であったかもしれないが,治療にあたりわれわれは1 歯に限局した処置でも,フルマウス症例であっても,治療計画立案時には口腔内の全体的な状況を把握しておく習慣を身につけることを忘れてはならない.口腔内全体の状況を踏まえた観点から個々の歯の問題をとらえれば,雑多でランダムな患者の主訴や表面的な問題が整理され,口腔内の根本的な問題が把握しやすくなる.表面的な問題にとらわれることなく根本的な問題を見据えた治療をめざすことは歯科医師として重要でさらなる成長につながる姿勢である.

    <この症例はザ・クインテッセンス2015年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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