Doctorbook academy

葉山揚介

上顎前歯部に歯肉弁根尖側移動術を 行い,審美修復した症例

<この症例はザ・クインテッセンス2015年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201505.pdf
#生物学的幅径 #フェルール #フェルール #審美修復

【患者】
55歳,女性,主婦.非喫煙者.予約時間をきっちり守る几帳面な性格.全身的既往歴はとくになし.

【主訴】
前歯をやり替えてきれいにしてほしい

【歯科既往歴】
約3 年前に他院にて前歯の治療をされた.治療終了時から歯肉が黒く,補綴物が壊れたが修理しかしてくれなかった.

【診査・診断】
臼歯部を中心に初期~中等度の歯周病に罹患している.主訴の他,装着されている補綴物においては適合状態不良であり,全顎的な治療が必要であると診断した.誌面の都合上,本稿では上顎前歯部について言及する.
 上顎前歯部歯肉は,ポケット2~4mm であるが,限局した発赤,腫脹がみられる.またエックス線写真では不十分な根管充填,二次う蝕を認める.生物学的幅径が破壊されている可能性が高く,フェルールの確保には歯肉弁根尖側移動術もしくは限局的な矯正治療が必要であると考えた.

【治療計画】
補綴物部位が4前歯であることやフェルールの問題,歯冠‐ 歯根比を考慮し,本症例においては歯肉弁根尖側移動術を行うことを説明した.術後の審美的障害や疼痛,最終補綴物を装着するまでの仮歯の期間が長くなることを説明し,納得してもらったうえで治療を開始することとした.

【自己評価】
治療経過1年10か月の結果からみて,患者が望む審美的な結果が得られた.しかし,術中の歯肉弁の操作等では,より慎重にならなければいけなかった.また,プロビジョナルレストレーションから最終補綴物において,とくにサブジンジバルカントゥアの移行が不十分であり,ティッシュサポートが不足してしまった.補綴治療は症例が複雑になればなるほど考慮しなければならない事項の多さを痛感した.

【今後の課題】
審美治療に関しては,術者側の考えた形態と患者側の望む形態には相違が起こりやすいことを前提にし,患者を満足させる治療ができる歯科医師になりたい.そのためには,一口腔単位の診断に加え,1歯に対するより確実な手技,口元・顔貌を含めた補綴設計が行えるように知識・技術ともに研鑽していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 田中 秀樹

     本症例においては,卒後10年,開業してまだ6 年ほどしか経過していないなかで,規格性をもった基本資料の採得から,初期治療,歯周外科をともなう審美補綴治療までを,患者さんとの信頼関係を保ちながらていねいに行っていることに感心させられる.とくに術前術後のデンタルエックス線写真の規格性と画質の高さ,ていねいで正確な歯内治療,補綴物の精度の高い適合状態については,申し分ない.これらは,日々の臨床に真摯に臨んでいる証だろう. 1 日の来院患者数と診療レベルから察するに,この結果はスタッフ全体のチーム力と彼の臨床に向けた熱意が患者さんに伝わってのことだろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 田中 秀樹

     歯周外科をともなう前歯部審美修復を行うにあたりとくに注意を払わなくてはならないことに,最終補綴物のマージン部の歯根幅径が健全歯の場合に比べて小さくなっていること,歯肉弁根尖側移動術(Apically positioned flap)を応用したことで,角化歯肉の幅と厚みが増えていること,さらに歯肉弁根尖側移動術などの切除療法では,歯周ポケットの除去が目的の1 つになるが,術後の治癒形態として,歯肉溝が浅くなるので,必然的にフィニッシュラインの設定位置も浅くなることがあげられる.浅い位置にフィニッシュラインを設定することで,サブジンジバルカントゥアの形態の付与が難しくなることを理解しておく必要がある.そのため,これらの理解が足りないと,長期間の観察で歯肉がクリーピングを起こした後にサブジンジバルカントゥアに付与したティッシュサポートの不足が,歯肉のロール状の肥厚を招き,補綴歯周囲歯肉の発赤として現れることとなる.
     そこで,本症例の最終補綴物装着1 年10か月後をみると,わずかに右上2番1番左上1番2番部の辺縁歯肉にロール状の肥厚と若干の発赤が認められる.これは,前述したようにティッシュサポートの不足が原因と思われる.さらにレベルアップした補綴治療をめざすならば,歯肉のバイオタイプに合わせたフィニッシュラインの設定とサブジンジバルカントゥアの形態付与,印象のタイミングなど,歯周形成外科後の歯肉の反応を理解した歯周補綴に対するより細かな配慮が必要であろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年5月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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