矯正的挺出により保存を試みた 前歯部症例
<この症例はザ・クインテッセンス2015年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201506.pdf
#歯肉縁下う蝕 #矯正的挺出 #歯の保存
【患者】
41歳,女性,会社員.性格は繊細で,心配性.仕事が忙しく,間食が多い.
【主訴】
差し歯が取れた,前歯をきれいにしたい.
【歯科既往歴】
他院にて約5年前に右上1番に補綴物を装着したが,その後3回脱離をくり返しており,前医から「抜歯してブリッジかインプラントを入れるしかない」と説明された.
【診査・診断】
デンタルエックス線写真,ポケット診査の結果,深いポケットは認められず,歯根破折ではないと診断した.また,間食が多く,臼歯部にう蝕,補綴物の脱離が認められることから,う蝕リスクの高い患者と診断した.
【治療計画】
右上1番は保存に必要な「健全歯根長10mm」は確保できると判断し,矯正的挺出による保存を試みることとした.患者には,矯正的挺出や歯周外科処置を行うことで治療期間がかかることを十分に説明し,理解を得た.また,う蝕リスクが高いことも説明し,食事指導を行った.
【自己評価】
前医から保存が難しいといわれていた歯を救い,審美的,機能的に改善がはかれた.しかし,経過を追うなかで,最終補綴物装着1年2か月後,右上1番の唇側歯肉にやや発赤が認められた.最終補綴物装着後のデンタルエックス線写真をみると,右上1番近心の骨が歯冠側にせり上がっており,これは歯周外科処置の際,歯周靭帯の切除が不十分であったことに起因するものと考えられ,反省している.
【今後の課題】
経過を継続的に観察することで,つねに自分の治療を振り返り,自己反省し,実力の向上をめざしていきたい.患者には当然,個人差が認められるため,それを見極め,さまざまな症例に対応できるように,知識,技術ともによりいっそう自己研鑽に励みたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
保存が危ぶまれる歯を抜かないで保存し,それを長期にわたって維持することが,臨床医としての歯科医師に求められ,それを患者さんがもっとも望んでいることを知っている.
このケースにおいて,まず臼歯部の咬合関係の安定をはかり,咬合支持を確立したうえで主訴である前歯部の治療に移ったところもすばらしい.すでに術者は歯科治療における咬頭嵌合位の重要性について認識していることがわかる.また,診査・診断,治療計画においてもまったく問題点は見当たらない.たとえば,この歯は他院では抜歯という診断をされていたものを,何の迷いもなく保存できる診査・診断を含めた技量をもっていることなどである.
この症例では矯正的挺出を選択したが,歯肉縁下のう蝕の処置で問題になるのは処置後の補綴物のマージンと骨との関係である.つまりbiologic width の領域確保のための処置が必要になる.矯正的挺出後のクラウンレングスニングもその予後をよくする要因になると考えられる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2015年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
岡崎先生と知り合ったのは,救歯塾セミナーだと記憶している.もちろん千葉市歯科医師会の同じ会員でもあるので知ってはいたが,話をしたことはなかった.聞いてみると,臨床基本ゼミ受講,救歯塾セミナー受講,歯科臨床研修会「一の会」受講,臨床歯科を語る会会員,ということで臨床歯科医として理想的な卒後を過ごしてきたことがわかった.そのため,すでにこの道を行けばさらに成長することが目にみえている.現在は千葉臨床歯科フォーラム(FDC)の若手のエースとして活躍をしているが,今後もこの勉強会を引っ張っていってもらいたいと思っている.
これ以上付け加えることはほとんどないが,これまでは比較的歯周病治療を得意としてそれを中心に診療してきたようであるが,今後は欠損歯列にも力を入れていけば,よりいっそう成長することが間違いないと信じている.これからもFDC で先輩,後輩に刺激を与えていただき,一緒に研鑚を積んでいきましょう.
<このコメントはザ・クインテッセンス2015年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>