Doctorbook academy

古賀弘毅

患者の年齢を考慮して感染根管治療 にて歯の保存に努めた一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2015年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201508.pdf
#感染根管治療 #歯の保存 #急性根尖性歯周炎

【患者】
17歳,女性.明るい性格でいつも笑顔で話をしてくれる.他院にて矯正治療と根管治療を受けていたが,通院が困難との理由から根管治療を目的として紹介された.

【主訴】
右上1番の動揺と同部位唇側の歯肉腫脹が気になる.自発痛はないが歯肉を押さえると痛む.

【歯科既往歴】
小学6年生のときに外傷により右上1番が脱臼して整復した既往がある.中学1 年生の頃から現在まで矯正歯科に通院している.

【診査・診断】
歯周検査により歯周ポケットはすべて3mm以内であったことから,エンド・ペリオ病変ではないと診断.根尖病変の原因歯として右上2番も疑ったが,電気歯髄診断によりバイタルを確認した.右上1番の打診痛および根管からの排膿,さらにエックス線所見により,外部吸収をともなった右上1番急性根尖性歯周炎と診断した.

【治療計画】
根尖病変が大きいこと,歯根の外部吸収をともなっていること,外傷の既往により歯根にクラックが入っている可能性があることを説明し,年齢を考慮して感染根管治療を行うことにより歯の保存に努めることを提案した.患者は治療期間が長期に及ぶこと,抜歯になる可能性があることも了承したうえで治療を開始した.

【自己評価】
起炎物質の除去と残存歯質の保存の狭間で苦慮したが,デンタルエックス線写真で根尖病変の変化を観察しながら治療を行ったことがこのような結果につながったと思う.しかし,1年3か月後のデンタルエックス線写真でも根尖病変の消失までには至っていない.さらに将来的な歯根破折のリスクも高いため,今後も十分な経過観察が必要であると考えている.

【今後の課題】
昨今マイクロスコープやCBCT,Ni-Ti 製ファイルなど,さまざまな機械・器具が開発され,歯内治療の進歩を感じる.これらの道具の導入や手技の習得は,これからの歯内治療において必須になっていくものと考えている.そのうえで先人たちのもつ長年の経験から得られる熟練の技やデンタルエックス線の読影力を身に付けられるように研鑽を積んでいきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 荒木秀文

     右上1番の歯根部外部吸収と右上2番1番にわたる大きな根尖部透過像のエックス線像から,診断はそう簡単ではない.想定されるさまざまな原因を1 つずつ確認しながら最終的な診断にこぎ着ける真摯な姿勢に,筆者の誠実さを感じる.最終的に急性根尖性歯周炎と診断し,また外部吸収による歯根破折の疑いをも外さず,抜歯の可能性についても説明したことは適切であった.
     根尖から飛びだしている充填材,外部吸収,大きな根尖病変等の問題があるため,治療は慎重に繊細に進められている.飛びだした一部の充填材以外はきれいに除去されている.また,根管と外部吸収がどのような関係になっているかは,CBCT がないと把握しにくいが,より造影性のある水酸化カルシウム製剤を用いて根管と外部吸収,根尖部と根尖病変の関係をデンタルエックス線写真で確認されたのは興味深い.なぜなら,根管と外部吸収が交通している場合はその後の治療法が異なるからである.根管の穿孔がないのを確認し,その後,約3 週間ごとに水酸化カルシウム製剤を貼薬し,根尖病変の縮小傾向と臨床症状の消失確認後に適切に根管充填している.根管充填後の処置も患者の年齢を考慮したMI な処置を選択している.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 荒木秀文

     原因と考えうるさまざまな可能性を考慮して診断される姿勢は歯科医療の根幹であり,今後も続けていただきたい.根管治療においては,ていねいな治療を心掛けていることは治療の流れから理解できるが,欲をいえば根尖から飛びだした根管充填材について除去するための手段というか,除去しようとする“頑張り”みたいなものがほしかった.そこへの意識が希薄なために,結果として飛びだした根管充填材は奥へと押し上げられている.飛びだした根管充填材はバイオフィルムで覆われているので,感染源は残存し続けることになる.現在は治癒傾向にあるが,今後,根尖掻爬等の対応に迫られることがあるかもしれない.また,患者の年齢に応じてMI のCR処置をされたのはすばらしいが,さらにもう一歩踏み込んで,歯冠部の内部漂白までできれば,さらに審美的にもよかったのではないか.
     古賀先生も今後の課題として述べているように,CBCT による三次元の診査やマイクロスコープによる治療は,さらに成長するためにも必要になる機器であることは間違いないだろう.これらの機器は,基本治療ができて初めて生かされることも知っておくことが重要である.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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