Doctorbook academy

宮地栄介

歯列不正がみられた下顎前歯部に再生療法を行い, 長期安定するように配慮した症例

<この症例はザ・クインテッセンス2015年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201509.pdf
#歯間離開 #再生療法 #矯正


【患者】
61歳,女性.パートタイムで販売員をしている.自分の意思がはっきりしており,やや神経質なところもある.

【主訴】
右上7番補綴物が脱離して来院された. 左下3番4番間は以前よりものが挟まり,左下3番は腫れたりすることがあった.初診時に症状はなかった.

【歯科既往歴】
前医にて右上1番左上1番は動揺があったため,連結された.

【診査・診断】
初診時のプラークコントロールは不良で全顎的にポケットが認められた.またブラキシズムの自覚があり,臼歯部には咬耗が認められ,臼歯部咬合高径の低下と歯周炎により前歯部のフレアアウトが生じていると考えられた.デンタルエックス線写真にて左下3番遠心に垂直性骨吸収が疑われる透過像が認められた.細菌感染と過度な咬合力の共同破壊による骨吸収が起こっていると診断した.

【治療計画】
ブラッシング指導とスケーリング・ルートプレーニング(SRP)による細菌のコントロールを行い,過度な咬合力を分散するためにナイトガードを装着してもらった.そして再評価後,骨欠損には再生療法を行い,空隙歯列には矯正を行う方針とした.重度の骨吸収が起きていることに対して早期に治療を希望された.

【自己評価】
来院中断期間もあり,治療期間が長くなってしまったが,骨欠損,歯周組織の炎症のコントロールを行うことができた.また左下においては歯列連続性を回復できたため再発しにくい環境にできたと思われる.しかし,今後左上のブリッジ等,力に対して注意深く経過を追っていく必要があると思われる.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 土屋厚

     本症例は,歯周病と咬合性外傷に起因した上顎前歯部のフレアアウト,オープンコンタクトをともなう不正咬合であり,炎症と力のコントロールが必要なケースとなる.食片圧入を主訴とする患者に対し,「なぜそのような状態になったのか?」を的確に説明して理解を得るには,総合的な知識が必要とされる.筆者はこれまで歯周治療を柱とし,幅広い知識と技術を習得されてこられ,本症例も包括的治療を実践して素晴らしい治療結果を獲得されている.再生療法やプラーク停滞を招きやすいLOT は,術前にプラークコントロールの徹底と炎症の改善を確実に行わなければならない.ブラッシングが苦手で,治療に対して消極的な患者を何度も鼓舞し,モチベーションを向上・維持させてこられたことにも敬服させられる.右下3番左下3番部の垂直性骨欠損の原因については,歯間離開による食片圧入とプラークの停滞,隣接面コンタクトの喪失により,咬合・側方圧に対する抵抗性が弱まり,ジグリングが発生したと推測される.術前の的確なボーンサウンディングにより骨の欠損形態を把握したうえで,欠損部上に切開ラインがこないように,血液供給の良好な舌側へと水平切開線を設定したことは,歯周外科に精通する筆者のレベルの高さが伺える.また,骨移植材を併用した再生療法から1年後に矯正治療を開始された点もコンセンサスのある適切なタイミングであったように思える.緩徐な力で牽引することにより,骨のリモデリングの影響もあったのではないだろうか.骨レベルを改善し,再発の予防と歯周環境を長期的に維持・安定させていくうえで,歯の位置異常を改善し,適切なアンテリアガイダンスとプラークコントロールを行いやすくしたことは評価できる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 土屋厚

     LOT は,改善した歯周環境を維持させることが主な目的だろうが,前歯部の圧下と舌側移動により被蓋関係
    は改善されているものの,左上3番のポジション,左下4番の歯軸の改善などとともに臼歯部の咬合拳上量も不足しているように思われる.とくにLow angle の患者は,経年的にバイトが深くなり,上顎がフレアアウトしていることも日常臨床では少なくない.左上4番5番部の欠損がよりバイトコントロールを難しくし,手技的な難易度を高くしているため,矯正専門医との連携は必要であった.自身の治療オプションの限界を見極め,患者利益を優先できるシステム造りも今後はめざしてほしい.また,舌圧が原因か,術後のエックス線写真で左下3番4番間のオープンコンタクトが再発しているようにもみえる.ワイヤー固定を右下4番〜左下4番もしくは脱離の心配がなく,清掃性を考慮して可撤式のリテーナーでもよかったのではなかろうか.再生療法の手技の面で気になった点は, 2 壁性骨縁下欠損の場合,骨移植材の流出の防止と血餅の安定をはかる目的で吸収性膜の併用を推奨する.
     宮地先生と私は同じスタディグループ(Surgical BasicCourse)で一緒に研鑽を積んでいる仲間であるが,先生の治療はつねに1つひとつがていねいであり,改めて基本治療の大切さを教えてくれる.今回,長期に及ぶ総合治療は,術者・患者ともに大変な苦労もあったことであろう.しかし,治療終了時には大きな達成感と喜びを共有されたに違いない.多くの学びを与えてくれた患者への感謝の気持ちを忘れずに,この経験を今後の診療に還元されていくことであろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年9月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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