Doctorbook academy

縄田竜哉

欠損歯列の性質を考慮した 補綴治療

<この症例はザ・クインテッセンス2015年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201510.pdf
#欠損歯列 #補綴治療

【患者】
68歳,女性.上品で理解力も高い.恐がりで多少神経質なところはあるが,きちんと説明すれば治療には非常に協力的に応じてくれる.

【主訴】
1週間ほど前から左下の奥歯の歯ぐきが腫れて痛い.今までも腫れることはあったが,今回はなかなか治らないのでみてほしい.

【歯科既往歴】
近医にて20年来定期受診しており,現状を説明するとショックを受けていた.しかし,自身でも腫れたり痛むのは歯周病のせいではないかと考えていたので納得したとのこと.

【診査・診断】
生物学的診査として残存歯の病態(う蝕・ペリオ・咬合性外傷等),欠損部顎堤の状態,加齢現象等を把握する.力学的診査として咬合支持(支持域/支持数),対向関係(受圧/加圧),歯列の対称性を把握する.これらから,欠損歯列自体がもつリスクとその補綴後のリスクを診断する.

【治療計画】
中~重度慢性辺縁性歯周炎で,今後バーティカルストップが不安定になり,上顎の欠損が進行すると機能回復が難しくなる歯列と診断した.幸いにも上顎前歯部への外傷を疑わせる所見はないため,現時点での積極的な治療介入が必要と判断した.まず,徹底した歯周基本治療を行うこと,その後に咬合の安定が得られる欠損補綴が必要なことを説明した.下顎の補綴様式は患者の希望を考慮しながら,リジッドサポートが得られ,残存歯の固定効果と歯周組織の診査・メインテナンスの容易性,経年的な変化への対応のしやすさからAGC テレスコープによる二次固定を選択した.また,破折のリスクを下げるために生活歯で行うこととした.

【自己評価】
歯周病に関しては,初期治療をしっかりと行ったことでひとまずの歯周組織の安定は得ることができた.欠損歯列に関しては,経験不足を補うために種々の統計や分類を用いながら診査・診断し,患者の希望と術者の治療の目的を両立させるには今しかないと判断し,全顎の治療を行えたことはよかった.

【今後の課題】
形成・印象・バイトと, 1 つひとつのステップの確実性を上げることや,診査・診断と長期の経過観察に耐えうるだけの資料の規格性など,課題は山積みである.病態はつねに変化することを念頭に置き,それに対応できる「診断力」を身につけることを目標に日々研鑽していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 田中 秀樹

     患者の年齢や欠損補綴に対する力学的評価から,口腔内全体をみて治療計画を立案していることは評価に値する.また,AGC テレスコープ内冠の支台歯を安易に抜髄せずに有髄歯のまま補綴したことも将来の破折リスクを考えると大変効果的であろう.初期治療から1 つひとつの治療ステップをていねいに進めていることも歯科治療に対しての真摯な姿勢が垣間見られる.AGC テレスコープデンチャーは,残存歯に対してスプリントの役割と適正な咬合力のコントロールが可能になる点でとても有利な補綴方法である.また,残存歯の経年的変化に対しても対応しやすい.しかしながら,補綴治療としては難易度の高い治療方法である.本ケースのようにバランスのよい残存歯の位置配分とコントロールされた歯周組織など,適応症を選ぶことが肝要でなる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 田中 秀樹

     これから臨床経験を積みながら,よりコントロールされた歯周治療,より高いレベルの補綴の適合精度へとステップアップしてほしい.そして今,全力で臨んだ症例を,患者との信頼関係を深めつつ,長期間メインテナンスを続けていくと,小さな治療介入から,いつかは再治療も必要になるであろう.そのときに,これまでの資料から治療結果の評価をすることで,学ぶこともたくさんある.つねに規格性があり,客観的評価のできるクオリティの高い資料採取と診断力が重要であるということを肝に銘じ,そこから生まれた経験とエビデンスに基づいた治療を行うことを忘れないでほしい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2015年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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