Intra rubber dam technique を用いた破折歯冠部の接着修復
<この症例はザ・クインテッセンス2015年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201511.pdf
#Intra-rubberdam-technique #マイクロスコープ #Modified-papilla-preservation-technique
【患者】
16歳,男性.学生.
【主訴】
仮歯が取れてしまうので前歯を治したい.折れた歯を戻したい.
【歯科既往歴】
3 か月前に体育の授業中にボールが当たって前歯が折れ,近隣歯科医院にて応急処置(仮歯)を受けたが, 1 は保存不可能で抜歯といわれたとのこと.
【診査・診断】
問診,臨床所見により右上1番は外傷性による水平性の歯冠- 歯根破折.さらにデンタルエックス線写真にて根尖部に透過像が認められ,慢性根尖性歯周炎と診断した.また歯周ポケットは3 mm 以内で縦破折が疑われるような局所的な深いポケットは認められなかった.
【治療計画】
破折面は唇側で歯肉縁,口蓋側では歯肉縁下で非常に深く,通常の接着操作で歯冠を回復できないことがわかる.またラバーダム防湿下での根管治療が現状不可能な状態である.修復治療として挺出を行い,補綴する方法では相当量の挺出が必要であるが,反対同名歯と比べて歯根長が短い.破折歯冠部はバラバラの状態であったが,歯冠片を合わせたところ幸い元の歯冠形態に回復できた.歯根面へ復位可能か調べるため,根面上に被っている歯肉を切除し,歯冠部を歯根面に戻してデンタルエックス線撮影を行ったところ,破折面はぴったり一致した.16歳という年齢からインプラント治療は適応外であった.また受傷後からバラバラの歯を保管していた患者の母親からの強い希望もあり,ブリッジやクラウン等の最終修復はせず,成人後の確定治療までのつなぎの治療という前提で,フラップを剥離してIntra rubber dam technique で歯冠部と歯根面を接着し,感染根管治療,ファイバーポストコア,CR充填という最小範囲の治療計画を考えた.この治療はチャレンジングであることも説明し,同意を得た.
【自己評価】
16歳という年齢を考慮し,患者の成人後の確定治療までのつなぎの治療としてできるだけ早く低侵襲な治療を行ったケースであり,計画どおりの結果が得られたと考えている.しかし,歯周外科による歯肉退縮を起こしてしまったことが反省点として挙げられる.
【今後の課題】
歯肉弁を剥離した状態で残存歯根面に確実にクランプをかけ,血液汚染が起こらないように防湿する手技がテクニックセンシティブであり,術前にCBCT 撮影を行い,三次元的に残存歯根の状態を把握して治療方法を選択することが望ましいと感じた.また,破折部が口蓋側で歯肉縁下深いことから,接着をしたとはいえ機械的な強度は低く,再破折の可能性もあり,注意深く観察していきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
梶山先生は,同じスタディグループでともに研鑽を積む仲間である.本症例は,他院で抜歯と診断されるも歯の保存を望んだ患者と両親の希望を叶えており,著者の歯科医療や患者に対する真摯な姿勢が体現されているように感じた.
本症例にはいくつかのポイントがある.外傷により前歯が破折した患者の精神的なショックと16歳という年齢への考慮,バラバラになった破折歯冠部を持参して歯の保存を希望した両親に対する配慮,チャレンジングな治療のリスクと予知性である.著者も言及するように,将来的な確定的治療のための“つなぎ”の治療としては最適な治療計画であったと感じる.しかしMI コンセプトは大切にしているが,これがつねに成功する手法とはいえない.われわれ歯科医師は,初めて行う手法を重ねて経験を積んでいくわけであるが,その際に重要なことは理論の構築である.「これは確実に成功する」と考えられることが必須である.そのためにも診断が大事であり,術前のCBCT 撮影は必要であったと思われる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2015年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
われわれ歯科医師は,患者によい治療を提供するためにつねにトレーニングを積むことが大切である.本症例では,破折歯の接着から,ペリオドンタルマイクロサージェリー,歯内療法,CR 修復と,さまざまな手法を駆使され,すばらしい治療結果が得られている.マイクロスコープが大いに力を発揮しているが,著者の確かな治療技術がみてとれる.本症例は将来的に力学的なトラブルが生じたとしても,つぎの手段があろう.今後,定期的に経過観察を行いながら,さらに自身の臨床スキルを向上させていくことで,治療のオプションがますます増え,今まで以上の結果を残されることに期待したい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2015年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>