非骨格性反対咬合を 早期介入により改善した症例
<この症例はザ・クインテッセンス2016年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201602.pdf
#下顎前突 #非骨格性反対咬合 #早期介入 #矯正治療
【患者】
8 歳,男児.しっかりと受け応えができる小学生.
【主訴】
受け口がひどいため,治せないかと母親から相談.
【歯科既往歴】
これまでもいくつかの歯科医院で受け口について相談するも「様子をみましょう」,「矯正は中高生になってからでしょう」と説明されていた.
【診査・診断】
口腔内を診査したところ, 右上1番左上1番右下1番左下1番の被蓋が反対になっている下顎前突が認められた.下顎前突が非骨格性か骨格性かを確認するために開閉口運動を行い,顎位を中心位へ誘導すると下顎は後退し,上下前歯部は切端咬合をとることができた.そのため,本症例では骨格性下顎前突ではなく,非骨格性下顎前突であると診断した.
【治療計画】
混合歯列期は身体ならびに顎顔面頭蓋部の成長発育が盛んな時期であり,不正咬合を残したまま成長すると顎顔面頭蓋部は正常な発育ができない.そのため,この時期の治療目的としては,上下顎間関係の改善および歯列や顎の成長発育を阻害する因子を除去しなければならないこと,また治療は一度だけではなく必要に応じて数回にわたる可能性があることを説明した.その結果,患者および両親は早期介入による矯正治療を希望した.
【自己評価】
非骨格性下顎前突に対して早期に治療を開始したことで,上下前歯部の顎間関係の改善だけでなく,上下顎の正常な成長発育も促すことができた.さらに上下顎が正常に発育したことで犬歯・小臼歯への生え変わりもスムーズで,術前と比較して咬合高径の増加が顕著で良好な結果が得られたと思われる.今回は可撤性矯正装置ではなく,ブラケットとワイヤーを用いた固定性矯正装置で治療を行ったことが,確実な歯牙移動を可能にしたと考える.
【今後の課題】
本症例では口呼吸や舌突出などは確認されなかったが,不正咬合の患者では異常習癖がともなっていることも多い.その場合,矯正治療だけを施しても長期的な安定は得られにくいため,今後は口腔筋機能療法にも積極的に取り組みたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
乳歯から永久歯への交換期には咬合育成が必要な患者が多い.そのまま放置して全顎矯正に移行するよりも,成長を利用したMTM により,正しい骨格や歯列に育成してあげるほうが何倍もよいことは明白である.本症例でも,骨格性でないという診断のもとに上顎前歯部の前方成長を阻害している反対咬合を解消し,正常な発育ができる環境を整える治療を行っている点はとても評価できる.
治療の流れも,早期に中切歯の被蓋改善を行い,経過観察後に側切歯を取り込んだアーチの拡大を行うなど,ていねいで適切な手法である.MTM を勉強するとはじめは局所にばかり目が向かい,全体の咬合に観察が及んでいないことが多い.しかし本症例では,問題である中切歯の被蓋改善だけを行うのではなく,全体を見据えたなかで,上顎アーチの拡大や下顎前歯部へのアプローチなど,全体がみえた治療が的確に行われている.一口腔内全体を見据えた治療に取り組むことに努力してきたことがよくわかる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
乳歯から永久歯への交換期には咬合育成が必要な患者が多い.そのまま放 小児の治療では,そのゴールを永久歯列完成におく.そのためには保護者を含めた信頼関係の確立がもっとも重要となる.そのうえで定期的なリコールを行いながら,ステージや個性に合わせた適切なアドバイスと治療を行っていくことになる.また診断においては現状のまま自然に成長した場合,どのような永久歯列になるのかという読みも必要である.乳歯列Ⅲ級咬合では,放置するとその約90%が永久歯列でもそのままⅢ級になるともいわれている.正常な発育では,上顎骨の下前方成長に適応する形で下顎骨が成長するが,反対咬合では下顎が上顎骨の成長を抑えた形式になるため,上顔面の十分な成長が望めなくなるうえ,下顎骨は上顎骨の規制から離れて勝手に成長するために反対咬合が自然にAngle Ⅰ級になることは考えにくい.放置して骨格性のⅢ級になってからの矯正治療では,外科矯正が必要になることもあるので,必ず何らかの介入が必要だと考えられる.
乳歯列期で反対咬合をみつけた場合のファーストチョイスはムーシールドであろう.きちんと使用されればほとんどのケースがⅠ級に変化する.もちろん混合歯列期でも十分使えるが,すでに理解力のある年齢であればワイヤーを使った矯正も選択肢に入ってくる.本症例ではこれらをふまえて,患者の保護者に対して適切な説明を行い,早期に結果を出すことで信頼関係を強くしている.そして経過観察のなかで適切な時期に適切な介入を行ってよい結果に結びつけており,とても理想的な治療の流れができているといえる.これ以上望むのは酷であるが,何かアドバイスをするとすれば,悪い状態からここまでよくしたと考えるのではなく,オーバーバイトやオーバージェットなどの審美性のみならず,機能的にも理想的なⅠ級咬合を求めて努力を続けてもらいたい.また咬合育成については『歯医者さんを知ろう』(クインテッセンス出版刊)の矯正のコーナーでも解説をしているので目を通していただきたい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>