歯周環境に配慮した インプラントによる欠損補綴の一症例
<この症例はザ・クインテッセンス2016年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201604.pdf
#ワックスアップ #インプラント #MTM
【患者】
30歳,男性.穏やかな性格で治療にも協力的.奥様が歯科助手ということもあり,自身の口腔内の状態に関してある程度の認識はもっており,欠損部は可能であればインプラントによる治療をと希望.
【主訴】
むし歯で歯が欠けている.インプラントの相談をしたい.来院時症状はなし.
【歯科既往歴】
6年前にむし歯治療を行って以来,歯科医院には受診していない.左上5番の欠損も前医にて抜歯後,そのまま放置されている状態であった.
【診査・診断】
う蝕により残根となった右上7番左上7番は鋏状咬合であったことが想像される.犬歯・小臼歯の摩耗により側方運動時の臼歯離開は喪失しており,問診からも睡眠時ブラキシズムが強く疑われた.元来のう蝕リスクに加え,軽度の歯列不正,臼歯離開の喪失,ブラキシズムなどの要因が複合的に絡み合い,右上7番左上7番 ,左下7番の歯冠崩壊や右上5番欠損に至ったと考えられる.
【治療計画】
残根部の右上7番左上7番,左下7番は縁下う蝕と挺出により予後不良.患者の経済状況や右下7番の状態を考慮し,上顎は右上6番左上6番までの短縮歯列とし,左上5番の欠損部にはインプラントの埋入を行う計画を立て,患者に説明して了承を得た.咬合診査や他部位のう蝕処置,右下8番左下6番抜歯等も行っているが,本稿では左上5番欠損部の治療に焦点を絞って治療経過を述べる.
【自己評価】
本ケースは矯正前でも,インプラント体と左上4番,左上6番との間に最低限の距離を確保することが可能であった.そのため,最終補綴をイメージした理想的な位置にまずインプラントの埋入を行い,それをアンカーとしてMTM を行った.最終補綴物の歯冠形態やMTM 後のスペースをシミュレーションして製作したサージカルガイドを使用することで,その後のブラケットの装着範囲や治療期間を最小限に抑えることができたと考えられる.しかし,今回の治療計画は埋入ポジションに大きく左右されるものであり,可能であれば術前の矯正治療でスペースを確保したほうがより確実であったと思われる.
【今後の課題】
矯正の経験が浅く,術前の全顎的な矯正処置を提案する際に患者を納得させられる説明ができなかった.今後経験を積み,治療計画の段階でさまざまな選択肢を考え,患者をよりよい治療法に導けるように,技術と知識の研鑽に努めたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
歯科臨床においてはまだ未熟ともいえる卒後7 年という臨床経験年数にもかかわらず,本症例での欠損補綴に対してインプラント療法を選択し,さらにその予知性を高めるために両隣在歯との清掃性もしくは天然歯との適切な距離を意識したインプラント埋入ポジションに注視したことは,著者の勤務先でのインプラント療法に対する姿勢が垣間見られ,日頃の勉強会の積極的な参加により得た知識が現れた結果と感じられた.また,診断の結果,最後方臼歯の歯冠崩壊や左上5番欠損に至った要因としてう蝕リスク,軽度の歯列不正,臼歯離開の喪失,ブラキシズムなどの複合的要因を挙げている.それらに対して治療計画の根本に補綴主導で部分矯正を組み入れて立案したことは,歯の接触点による歯列の連続性や適切な歯のポジションがもたらす良好な咬合関係と歯周組織の安定化が修復補綴物の審美機能,永続性の向上や清掃性の効率化をもたらすと周知していることを伺わせ,非常に評価できる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
著者はサージカルガイド製作上の問題もあり,模型上で左上6番近心隣接面を削合して左上5番の理想的なスペースを確保し,診断用ワックスアップにてインプラント埋入ポジションの決定をしている.本ケースの矯正治療を含めた欠損補綴の診断を正確に行うためには,左上4番6番それぞれの傾斜に対して整直したセットアップ模型上で最終補綴物のワックスアップによる診断が必要である.それにより詳細な矯正治療による移動量の把握,対合歯との咬合,隣在歯との接触位置の再現,ならびにインプラント埋入ポジションのより精密な診断が可能と思われる.また,本ケースに限りインプラント埋入手術前に左上4番6番にブラケットを装着し,コイルスプリングによる左上5番の欠損スペース拡大のための術前部分矯正でも治療期間の短縮やインプラント体に長期の矯正力の負担軽減になったと考えられる.最後にナイトガードの使用が動的矯正治療後の保定を含めて有効であることも,著者の今後の活躍に期待を兼ねて追記したい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年4月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>