Doctorbook academy

柳川淳子

顎変形をともなう 重度顎関節症患者の矯正治療の一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2016年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201606.pdf
#顎関節 #リモデリング #非対称 #顎変形

【患者】
26歳,男性.明るく楽天的,社交的であるが,自分の意見ははっきりといわれる.

【主訴】
口を開けると顎関節部が痛く,音がする.口が開けにくい.薬の服用が必要なほど,片頭痛がある.

【歯科既往歴】
う蝕ができたときなどに歯科医院に通院するが,とくに定期的に検診は行っておらず,顎関節の状態はつねに気になっていたとのこと.

【診査・診断】
小出馨先生が推奨する触診,顎運動の動画撮影,側方頭部エックス線規格写真,顎関節エックス線写真,顔貌写真等の資料により,顎顔面の非対称,顎関節症の病態分類Ⅰ型(咀嚼筋痛障害),Ⅱ型(顎関節痛障害),各側においてⅢ型(顎関節円板障害,左側:a. 復位性,右側:b. 非復位性),Ⅳ型(右側:変形性顎関節症)と診断し,MRI 画像では右側下顎頭の滑走運動制限を認め,stuck disc や癒着が疑われた.

【治療計画】
High Angle,右上3番の埋伏のため,上顎の正中が顔貌に対して右側にズレている.右下6番欠損,右側関節の変形,顎関節の機能障害がみられ,顎顔面が非対称であることを説明.矯正治療,インプラント治療を含めた全顎治療の必要性を説明し,同意を得た.

【自己評価】
矯正終了時には,開閉口時の痛み,顎の機能運動不全,片頭痛などの症状の改善がみられた.正貌頭部エックス線規格写真の比較から右側の下顎頭の骨添加を期待して関節腔の空隙の確保を行えたと考えられる.今後,下顎頭の骨添加に関する定期観察や,咬合のチェックが必須である.

【今後の課題】
顎運動の軌跡を客観的にみることができる診断資料を充実させ,患者個々の顎関節の病態を的確に把握・診断し,理想的な下顎位を模索しながら顎関節症状の改善を行える矯正医をめざして日々研鑽していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 吉村理恵

     右上3番の埋伏により反対咬合であるにもかかわらず,顎関節症で下顎を前方に誘導しなければならないとても難易度の高い症例をよくぞここまで仕上げられたと感銘を受けた.
     顎関節症の患者を治療介入するにあたり,いちばん大事なことは顎関節部の診断であろう.術前の問診,視診,筋の触診,顎関節部の触診,下顎頭運動の検査,エックス線検査,さらにはMRI などの顎機能診断のための検査がきちんとなされたうえで,咬合との関連を的確に診断し,治療方針を決定されている.この症例は,口腔内写真では前歯部および左側臼歯部の反対咬合で下顎が左側にズレているようにみえるが,実際は右側の咬合が低くオトガイは右側にズレ,とくに右側の下顎頭が関節窩に押し込まれているという下顎の複雑なねじれが存在する.術者の技量はもとより,これらの病態を正確に診断し,その治療方針に従い忠実に治療を行ったことが,このような難易度の高い不定愁訴をもつ重度顎関節症の患者に対して,素晴らしい結果を得ることができた要因であろう.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2016年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 吉村理恵

     右上3番の埋伏がみられるこのようなケースは,本来どちらかというと下顎骨に対して上顎骨の劣成長が考えられる.術後の口腔内写真からもうかがえるように,下顎はきれいなアーチを呈しているのに対し,上顎歯は全体にフレアーしており,無理やり広げたようにみえる.本来ならもう少し臼歯部のオーバージェットがあるともっと安定した咬合が得られたのではないかと思われる.そのためには,マルチブラケット治療だけでは限界があり,外科的急速拡大(SARME)などを考える必要があるのかもしれない.また,この症例ではおそらくAnterior Ratio が大きかったのではないだろうか.もうひとつ工夫するとすれば,下顎前歯をディスキングすればもう少し前歯部の収まりがよかったかもしれない.さらに,顎顔面の左右非対称の改善のためには,マイクロスクリューを用いれば右側の咬合高径の増大が容易に行え,治療期間の短縮にもつながったと考える.
     しかしながら,矯正治療を含めた全顎的な治療により重度顎関節症がみごとに改善され,不定愁訴の消失を認めたすばらしい症例である.今後,予後を観察することにより,さらなる飛躍の糧としていただきたい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2016年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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