複数歯の歯肉退縮に対する 上皮下結合組織を用いた根面被覆症例
<この症例はザ・クインテッセンス2016年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201607.pdf
#根面被覆 #上皮下結合組織 #エナメルマトリックスデリバティブ
【患者】
36歳,女性.非喫煙者.几帳面な性格で,痛みに敏感,口腔衛生への関心は高い.転居のため,メインテナンスの継続を目的に前医から転院された.
【主訴】
約1か月前から,ブラッシング時や冷たいもので右下がしみる.
【歯科既往歴】
これまで小さな修復処置しか受けたことがない.歯ぎしりやくいしばりを自覚し,前医で製作されたナイトガードを使用.
【診査・診断】
まずは,同部の歯肉退縮とそれにともなう知覚過敏について,原因の考察を行った.チェアサイドでいつもと同じようにブラッシングをしてもらうと,オーバーブラッシングであった.そのため,まずはブラッシング指導を行った.知覚過敏に対しては,知覚過敏抑制材を塗布した.1か月ほど経過観察を行ったが,辺縁歯肉のクリーピングアタッチメントは認められず,知覚過敏症状も初診時とあまり変化がなかった.そのため, 歯肉退縮に対する根本的な改善のために根面被覆を計画した.
【治療計画】
歯肉のBio-Type はThin,退縮した辺縁歯肉は歯肉頬移行部を越えず,隣接歯間乳頭や骨の喪失も認められなかった. そのため,Miller の歯肉退縮の分類でClass Ⅰと診断した.Class Ⅰは完全被覆が可能とされているが,右下6番の近心根は頬側に突出しており,骨の裂開も予想された.患者には,治療計画を説明する際,同部が部分的根面被覆になる可能性と術後に露出根面が残存した場合にコンポジットレジンで被覆する旨を説明した.そのため,本症例における手術の目的は,小臼歯部の完全根面被覆と右下6番の可及的な根面被覆,角化歯肉の幅と厚みの増大とした.
【自己評価】
術式の考察や適応症の選択,術部の診査といった事前の準備を入念に行っていたため,術中も計画どおり処置ができた.本症例における患者の治療への期待は知覚過敏症状の消失と露出根面の被覆であったが,術者,患者ともに満足いく結果が得られた.
【今後の課題】
今回は, 口腔前庭の深さの維持と角化歯肉の増大を目的としてModified LangerTechnique を選択しているが,根面被覆には他にも多くの術式が存在する.今後は,審美的配慮なども含めて適応症を判断しながら少しずつ他の術式も習得していきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
尾野先生は大学の後輩であり,私が所属するJIADSスタディクラブでともに学ぶ仲間でもある.研修医修了後よりわが師である宮本泰和先生のもとで研鑽を積まれ,卒後6年という臨床経験にもかかわらず,しっかりとした基礎的な技術のうえに成り立つレベルの高い歯科治療には目を見張るものがある.
本症例においても原因の考察から始まり,的確な診査・診断,綿密な治療計画のもとで行われる正確なメスさばきなどの治療センスは際立っている.歯肉退縮の原因はさまざまであるが,今回の場合,歯肉のBio-TypeがThin であり, 術前の問診と診査からパラファンクションやオーバーブラッシングなどが考えられる.
著者は,事前にブラッシング圧の指導を自ら行い,クリーピングによるアタッチメント改善の有無を判断していることは評価に値する.また,完全な根面被覆が困難と思われる第一大臼歯に対しても,EMD の使用,オドントプラスティなど,的確な判断と手技が良好な治療結果につながっていると感じた.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
もう1つ特筆すべきは,著者のコミュニケーションスキルの高さである.本文でも述べているように,患者との信頼関係を構築し,熱心なカウンセリングを行うことで,外科処置が困難な患者に対しても良好な治療結果が得られており,今後も伸ばしてほしいスキルの1 つである.
本症例は非の少ないケースではあるが,あえて指摘するとすれば,患者の負担を考慮し,上皮下結合組織の採取を両側ではなく片側にとどめる工夫ができたのではないだろうか.また,術式の選択は妥当であるが,ModifiedLanger Technique はやや瘢痕が残りやすい術式であり,数年後に瘢痕がめだってくることも稀ではない.そのため,審美的な配慮として術後のレーザーによる蒸散は効果的である.今後も注意深くメインテナンスを行い,長期的な経過を観察することが重要であり,審美的に優れた他の術式にも積極的にチャレンジしてほしい.持ち前の歯科医師としてのセンスと実直な姿勢を忘れず日々研鑽を重ね,さらなるステージへと昇りつめてほしい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>