審美性を考慮した歯肉弁根尖側移動術
<この症例はザ・クインテッセンス2016年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201610.pdf
#審美性 #歯肉弁根尖側移動術 #プロビジョナルレストレーション
【患者】
28歳,女性.明るい性格.
【主訴】
上の前歯のかぶせ物をきれいにしてほしい.
【歯科既往歴】
上顎前歯部の補綴治療は5 年前に行った.疲れたり,体調を崩したときに上顎左側前歯部に違和感を認める.
【診査・診断】
右上2番〜左上3番 に装着された前装冠には形態・色調に不調和を認めた.歯周ポケットは認めなかったが,歯肉ラインは左右非対称,右上2番1番歯肉にはメタルタトゥーによる変色を認めた.エックス線所見では右上2番左上1番2番に根管治療の不備を認め,とくに左上1番2番には大きな根尖病変を認めた.咬合関係は下顎前突傾向であり,左上2番3番が反対咬合,右上2番の補綴物は唇側傾斜を認めた.本症例は不良補綴物,歯肉ラインの不調和,歯の位置異常を原因とする審美不良と診断した.
【治療計画】
TBI の後,補綴物を除去し,清掃性を考慮したプロビジョナルレストレーションを装着した.右上2番左上1番2番に対して感染根管治療を行ったところ,違和感の消失,エックス線的に根尖部透過像の縮小を認めたため,保存可能と診断した.補綴治療を行う前に歯肉縁下う蝕処置の改善および左右対称的な歯肉ラインを獲得するために歯肉弁根尖側移動術(Apically Positioned Flap:以下,APF と略)を行った.十分な治癒期間を経たのち,補綴治療を行った.
【自己評価】
APF を行うことで適切な歯冠長が得られ,審美的な補綴物を製作することができた.さらにAPF を適用したことにより,補綴物周囲にとって有利な歯周環境に整備され,補綴物の長期維持を期待できる結果が得られたと考える.術後5 年において,クラウンマージンの露出なども認めず,歯周組織の健康は維持されており,治療結果に対して患者の満足が得られている.
【今後の課題】
前述した外科処置時のいろいろな操作,プロビジョナルレストレーションの操作など,各々のステップでの確実性および精度の向上に努めていきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
本ケースのように補綴修復歯において根尖病変や二次う蝕などの問題がみられる症例は多い.また,補綴物の色調や形態のみならず歯肉ラインの不調和に起因する審美不良を訴える患者の対応に苦慮することも多い.とくに前歯部においてこのような問題を解決し,良好な結果を得るためには,根管治療,歯周治療,補綴治療のすべてにおいて適切な治療を実践することが求められる.今回,術前診査から的確に問題点を抽出し,それぞれの問題に対して解決をはかれたことが,良好な治療結果につながったと考えられる.術前に保存不可能かと思われた大きな根尖病変が,根管治療により保存可能なレベルまで改善されている.そして,APF を行い,歯肉縁下う蝕の改善および歯肉ラインの調和がはかられている.APF 後の歯周組織は浅い歯肉溝が確立され,生理的な骨形態,十分な付着歯肉の獲得など,清掃性,組織安定性の高い歯周環境になっており,その長期的維持を十分に期待できる結果が得られている.さらに,APF 後十分に治癒を待ち,清掃性,機能性,そして審美性に配慮した補綴治療が行われている.これらの基本に従ったていねいな治療の積み重ねが,治療終了後に歯周組織の健康が維持され,長期的安定を期待できる結果につながったと考えられる.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
非常に良好な治療結果が得られているが,さらに高いレベルの治療を行っていくためにいくつかアドバイスさせていただきたい.今回APF を行い歯肉ラインの調整をはかっているが,左右対称な歯肉ラインが獲得されていない.その理由として,術後の歯肉辺縁の形態は,骨レベル,骨形態,歯の位置やバイオタイブに影響を受ける.本症例では歯の位置異常の影響が大きく,歯周外科処置を行う前に矯正治療を行い,歯の位置を改善しておくことが望ましかったと考える.術式の細かいところではAPF 時の歯肉弁の位置づけが,根面に重なってしまっており,このような状態では角化歯肉の喪失や経年的に歯肉退縮の可能性が生じてしまう.APF では,歯肉弁断端を骨頂に位置づけることが重要である.また,プロビジョナルレストレーションの歯軸や切端形態の左右対称性など,もう少し最終補綴の原型になるように仕上げていくことができたのではないかと思われる.
治療後5 年の状態では,良好に経過しているように思われるが,今後も注意深くメインテナンスを行い,長期的に硬,軟組織を観察していくことが重要である.これからもていねいな治療を実践し,さらに多くの患者に満足していただけるように知識,技術の研鑽に励んでもらいたい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年10月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>