Doctorbook academy

吹譯景子

即時義歯製作による力と炎症の コントロール

<この症例はザ・クインテッセンス2016年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201611.pdf
#即時義歯 #力と炎症のコントロール

【患者】
71歳の女性.介護職として老人保健施設で働いている.第一印象は暗く,元気がない感じ.声は小さくぼそぼそとして聞き取りづらかった.

【主訴】
「入れ歯が安定せず,よく噛めないし吐きそうになるので,新しくつくってほしい」

【歯科既往歴】
それまでは,歯がグラグラになったから抜歯して義歯を追補する,染みるからセメントで歯頸部を覆う,動揺するから全部固定する,といった対症療法のみ受けてきた.

【診査・診断】
今から5年前,短期の非常勤勤務の医院での出会いであったため,はじめは筆者自身が「術後の責任がもてないのに,あまり治療介入するのはどうか」とためらっていた.しかし,患者とじっくり話すうちに「どうしても笑顔がみたい」と思い,治療に着手した.著しいフレアアウトにより,上顎は歯がフイルムに入りきっていない.全顎的な水平性骨吸収もあるが,とくに前歯部や下顎右側臼歯部などは,力の影響によるものと思われるサインがみられる.

【治療計画】
基礎資料をみながら「なぜこうなったのか」を分析し,「どうすれば改善できるのか」を患者に説明した.
まず力のコントロールとして,診査・診断によってあらかじめ設定していた基準をもとに,一気に咬合平面と咬合高径の改善をはかり,その後,歯周治療・根管治療等の炎症のコントロールを行っていった.患者は口腔内・顔貌の変化にともなってどんどん治療に積極的になり,最終的にはLOT やインプラント治療をも受け入れてくれた.

【自己評価】
治療前の十分な考察が活かされ,早期に機能や審美性の改善を実感できたことが,その後の治療継続につながったと考える.

【今後の課題】
勤務医時代はなかなか長期的予後を追うことができなかったが,今後はしっかりとメインテナンスを行い,患者と末永いおつきあいをしていきたい.健康寿命とQOL の向上に寄与すべく,咀嚼機能が全身の健康に及ぼす影響について見識を深めているところである.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 元永三

     この症例は初診からメインテナンスに至るまで,すべてにおいて基本に忠実に行われていることに感心した.
     咬合の崩壊,歯周組織の崩壊,審美性の崩壊,そして心の崩壊まで持ち合わせた患者に対して,高度な技術や最新(出たばかり)の材料を駆使して大胆かつ派手に難症例に挑むかのごとく治療するのではなく,「なぜそうなったか」ということを病態だけでなく患者の内的な悩みに対する配慮まで含めて的確に診断されており,「どうすればよくなる」の答えである原因除去と環境整備に対する明確な基準に沿っての基本治療が確実に行われているがゆえに,簡単に治療しているかのごとく見えながら十分満足のいく結果が得られている.医療技術の押し売りや魅せるための症例作りでなく,患者の希望に沿った的確な処置が適材適所で行われている.治療が進むにつれて患者の心の変化(改善)やQOL に対する欲望が高まっていることがこれらを物語っている.
     治療の内容的には上顎の残存歯に補綴処置を行わず,的確な歯内療法処置と歯周基本初期治療を行い,残根上義歯にしたことを大いに評価したい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2016年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 元永三

     人は成長するためにいろいろな方法や道や形がある.私が思う成長とはまず自分づくりである.つぎに自分のイメージにあった師から学び,学んだことを疑わずに確実に実践する.そして実践したことを人に伝えながら,自分の形を作っていくことだと確信しているが,吹譯先生はまさに今この段階にいる.
     吹譯先生が2007年に私のコースを受講して以来,早10年が過ぎようとしている.この10年間の変化と進化には多くの人が認めるところである.九州大学の病理学教室にて生体のもつ生物学的な基本概念と知識を学び,病態に対する診断力とメカニズムの把握を高める一方で,臨床を通じて病理学教室にて学んだ基礎学問を臨床と一致させる努力が治療結果に現れている.
     これからも,思いやりの診える医療人としての姿勢と想いを今後も一貫して貫いてほしい.そしてさらに成長するためには吹譯景子イズムを試行錯誤しながら確立し,その結果がより確実になったときに1 つの治療スタイルとして歯科界に広めていくことが,歯科界のためであり,吹譯先生の成長につながると確信する.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2016年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • Doctorbookユーザ(ID:9468)

    右下6番部位のインプラントは、1本で十分。治療は、必要最小限に留める。むしろ、上顎が総義歯であり、歯周組織もコントロールされているなら、あえて補綴しない選択肢もありうる。

Doctorbook academy

本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。

あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください


Facebook ログインの確認

Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。

Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。 誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。