S-shaped profile による クリーピングアタッチメントの観察
<この症例はザ・クインテッセンス2016年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201612.pdf
#S-shapedProfile #クリーピングアタッチメント
【患者】
40歳(平成26年2 月初診),男性.もの静かだが話すと明るい.
【主訴】
今朝自転車で転んで,前歯をぶつけてから歯が動いて痛い.
【歯科既往歴】
仕事が忙しく数年歯科受診から遠のいていたとのこと.審美補綴を希望しているのでデンタルIQ は高いと推測できるが,初診当時の口腔清掃状態は悪く,前歯部のう蝕も進んでいた.
【診査・診断】
歯周検査およびエックス線診査および視診による支台歯の診査・診断を行った.
【治療計画】
まず全体的な歯周治療からの開始を説明し,前歯打撲による歯根破折が疑われるが,左上1番は歯髄を保存して,右上1番左上2番は抜髄を,右上3番2番は歯内療法後に前装冠または歯肉縁下にマージンを設定した金属焼付ポーセレンクラウンの装着を説明した.
【自己評価】
術前に見込んでいた歯肉のクリーピングが全体に観察され,とくに歯根破折を心配していた右上3番2番部にも炎症は認められず,順調に予後をたどっているが,まだ装着後1年9か月であるので,今後も慎重に定期検診を行っていきたい.
【今後の課題】
本症例および他に手がけているすべての症例に対して,師匠である行田克則先生の症例のように10年以上の長期安定をめざし,本症例の10年後の状態を『帰ってきた症例PLAYBACK』のコーナーに再度投稿できるように経過観察をしていきたい.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
口腔内環境が整っていない本症例において,松山先生の1歯1歯を大切にし,患者側に寄り添った治療を高く評価するとともに師匠行田氏の教えを遵守し,基本に忠実な処置を施していると感じた.とくに右上1番左上2番に対し,歯内療法や支台築造を確実に行っている姿勢は執念のようなものさえ覚えた.私も行田氏が提唱する歯肉縁下マージン(S-shaped profile)を臨床で行っているが,歯肉縁下形成・プロビジョナルレストレーション製作・印象採得・ラボ作業,それぞれがパーフェクトに遂行され,良好な予後が見込めると考えている.本症例は金属焼付ポーセレンクラウン装着時には成熟していなかった周囲組織が経過を追うごとにクリーピングし,安定を迎えている.このことは10年以上行田氏のもとで研鑽している成果が十分現れていると感じ取ることができた.さて,本症例は前歯部にフォーカスを当てているが,患者は上下臼歯部が欠損しており,局部床義歯を装着している.このような症例においてアンテリアガイダンスを含め,その咬合付与および調整に対し,メインテナンス時を含めて苦慮する場面が多い.誌面の都合上,記載はなされていないが,そのひと工夫についてもお聞きしたいと感じた.また,歯根破折や歯牙移動防止のために補綴部を連結冠にしていることは評価する.しかし,歯内療法を施した右上3番2番に対し,病巣内に突出した根管充填材の今後の反応は気になるところである.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
右上1番左上2番に対する支台築造に使用したポストは根尖部に到達する長いポストである.歯根の強度を考えると歯根破折を惹起する危険性が高いのではないだろうか.メインテナンス中の咬合を含めた力のコントロールをどのように調整していくか,考慮する必要があると感じた.また,本症例は装着時から順調に歯肉のクリーピングがみられる.しかしながら,歯肉は少しの外的な力でも容易に変化する.患者への適切なブラッシング指導が長期安定の鍵を握るひとつであろう.
松山先生も述べているように,本症例は治療終了後から1年9か月と評価期間が短い.今後は5年,10年と予後をみたいと感じた.また,本症例のように根気強く治療を遂行する姿勢は大変すばらしい.このことは安易に抜歯を選択する場面が多いと感じる現状に一石を投ずることになると思うので,貫いていただきたい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2016年12月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>